研究実績の概要 |
令和元年度は, 主に高齢者(80歳以上) における精神神経用剤の薬物有害作用 (AE) 発現の調査を目的として, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構が公開する医薬品副作用データベース (JADER) および厚生労働省が公開するレセプト・特定健診情報に集積された公表資料を基に解析を実施した. 【結果】催眠鎮静薬および抗不安薬においては, 80歳以上の患者でせん妄および転倒・骨折が有意に発現しやすいAEとして抽出された. 特に, 消失半減期の短い催眠鎮静薬 (酒石酸ゾルピデム・トリアゾラム・ブロチゾラム等) においてはAE発現の相対リスクが高く, 少量から投与を開始するなど, 慎重な投与設計が重要であることが示された. これらは, JADERに登録されている全データを基に80歳をカットオフ値として各AEの発現率を検討した結果 (対照群) と比較しても極めて高い値を示した. 一方で, 認知機能の悪化等のAEに関しては, 酒石酸ゾルピデム等では80歳以上の高齢者において有意に発現しやすかったものの, 対照群と比較すると特有の傾向は観察されなかった. 抗うつ薬においては, 選択的セロトニン再取り込み阻害薬で転倒・骨折やQT延長, 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群等が統計学的に有意に発現しやすいAEとして抽出されたが, 臨床的意義のある差では無い可能性が高いと判断した. また, 検討した全ての薬剤において, 投与開始時からAE発現までの期間に有意差は認められなかった. 上記結果を基に, 高齢者において用量調節の実施がさらに必要な典型的な医薬品としてトリアゾラムを選定し, ファーマコメトリクス手法を用いた評価を実施する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに, 精神神経系薬のAE発現に関する実態調査と, 用量調節の実施がさらに必要な典型的な医薬品の選定は完了している. 一方で, 加齢の影響を共変量として組み込んだモデルは不十分である点も多い. モデルの構築は薬物曝露や相互作用の影響を定量的に評価するために必須であるため, 現在モデルの最終化作業を実施している. 本年度に得られた成果は, 第22回 日本医薬品情報学会総会・学術大会にて発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた高齢者においてAE発現の観点から特に重要である医薬品の情報および既存のモデルを基に, 薬物曝露等を定量的に評価可能な体系を構築する. また, モデルを基に, 種々のシミュレーションを基とした評価を実施し, より有効で安全な薬物治療に資する情報の構築を目指す.
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