研究実績の概要 |
令和二年度は, 昨年度までに80歳以上の患者でせん妄および転倒・骨折といった老年症候群が有意に発現しやすいと同定された催眠鎮静薬であるトリアゾラム (TRZ) を用量調節の実施がさらに必要な典型的な医薬品として種々の検討を実施した. 有害事象発現傾向は日米の副作用自発報告データベース (JADER, FAERS) に報告されたデータを用いて, 高齢者におけるAE発現リスクを報告オッズ比にて評価した. 処方実態の解析には第4回NDBオープンデータを用いた. また, 既報より血中濃度および鎮静・認知機能の推移を抽出し, 鎮静・認知機能の悪化が生じるTZR濃度のカットオフ値を算出した. 得られた情報よりPK/PDモデルを構築し, 高齢者における用法・用量を検討した. 【結果】本邦では, TZR全処方の50%が70歳以上に投与されており, 処方の86%がCYP3Aの基質薬と併用, 8.6%がTZRのAUCを1.25倍以上上昇させる阻害薬との併用であった. 日米副作用データベース解析より, せん妄でAE発現シグナルが検出され, 高齢者において発現しやすい傾向であった. 鎮静および認知機能の悪化が発現する濃度はいずれも約0.5 ug/mLであった. Effect compartmentを用いて血中濃度と鎮静・認知機能の推移を連結させたPK/PDモデルを構築し, 高齢者にTZRを0.0625 mg (0.125 mgの半錠) で投与した時に許容可能な併用薬のについて検討した. その結果, 高齢者にはTRZを0.0625 mgで投与した場合においても, AUCが 2.27倍以上の増加する薬剤と併用すると, 薬物の消失が大きく遅延し, 翌朝のAE発現リスクが増加する可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度の初めは, 大規模データベースおよび解析ソフトを取り扱える施設の利用が大きく制限されていたため, データの抽出および解析は完了しているものの, 未だ原著論文としてpublishするに至っていない. 現在は投稿作業中であるため, 速やかに完了させたい. 本年度に得られた成果は, 日本薬学会 第141年会にて公表した.
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