研究課題/領域番号 |
19K20743
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
井上 剛 大阪工業大学, ロボティクス&デザイン工学部, 准教授 (00823527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 起立動作支援システム / 起立動作支援 / 筋電位 / EMG / 起立速度予測 |
研究実績の概要 |
本研究では,個人の起立動作速度の違いに対応可能であり,さらに筋活動量のコントロールが可能な起立動作支援システムの実現を目的とする.本年度は体幹前傾角度と下肢筋電位(内側広筋)の計測結果に基づき起立動作の支援を開始する起立動作支援装置を実際に駆動させ,支援速度と支援効果の関係について評価を行った.なお,本支援装置は座面が駆動することで臀部を持ち上げてユーザの起立動作を支援する. まず,2名の実験協力者の起立動作における膝関節角度の計測を行い,支援を行わない通常起立動作の膝関節角度の変化が直線的であることを確認し,支援装置の座面角度も直線的に変化させることとした.20回の通常起立動作の膝関節角度の変化における10%-90%のデータに対して最小二乗法で近似した直線の傾きから基準支援速度を決定し,基準支援速度およびその1倍,1.5倍,2倍の速度で支援を行った際の支援効果について2名の実験協力者に対して評価実験を行った.支援効果を示す指標として,起立動作区間における内側広筋の筋電位の振幅を基にして算出した筋活動量の通常起立動作時に対する支援時の減少率を用いた. 評価の結果,全ての速度で筋活動減少率は正の値となり,支援装置による負荷軽減が実現していることが確認できた.両実験協力者共に1.5倍の支援速度での筋活動減少率が最も大きく22.3%および31.7%であった.2倍の速度支援速度で減少率が小さくなったのは支援する力が大きすぎて姿勢を保つために通常の起立動作では必要としない筋活動が発生したと考えられる.本評価実験で支援速度や最大支援角度を変化させることで筋活動の減少率が変化することを確認した.これにより,本支援装置の駆動速度や最大支援角度を変更することで,個人に必要な筋活動を保ったままの支援が可能であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,実際に起立動作支援装置を駆動させて実験協力者の計測を行う評価実験の実施を目標としており,人数は少ないものの実験が実施できたため,進捗としては概ね順調である.まず,支援装置を用いた評価を行うために,ソフトウェアの改良を行った.具体的には支援装置の座面駆動速度を変更可能とし,連続して支援を行うようにソフトウェアを改良し,2名の実験協力者に対して,支援速度を変更した際の支援効果に関する評価実験を行った. 評価実験では,体幹前傾角や膝関節角度,左右の下肢筋電位(内側広筋・腓腹筋),座面反力など様々な計測を行った.まず,通常起立動作の計測結果から通常起立の膝関節角度の変化速度を計測し,次にその速度を基準として,1倍と1.5倍と2倍の速度で支援装置の座面を駆動した際の計測を行った.通常起立に対する支援起立の効果を明らかにするため,筋電位信号の振幅値を基に定義した筋活動量の支援による減少率用いて評価を行った.その結果1.5倍の支援速度での筋活動減少率が最も大きく22.3%および31.7%であり,支援装置による負荷軽減が確認できた.さらに速度変化と最終支援角度により支援効果も異なることも確認できた.これにより,本支援装置の駆動速度や最大支援角度を変更することで,負荷をなるべく小さくする支援だけではなく,個人に必要な筋活動を保ったままの支援が可能であることが示唆された.ただし,支援速度を早くしすぎると,最終支援角度によっては支援する前方への力が大きすぎて姿勢を保つために通常の起立動作では必要としない筋活動が発生してしまうため,支援をし過ぎないフィードバック機能が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は3つの項目について開発および評価を行う予定である.1つめは,支援システムの効果に対する評価実験および筋活動コントロールの精度評価である.具体的には,今年度の評価実験をより多くの実験協力者に対して行い,支援速度と支援最終角度を個人に合わせて調整することでどの程度の筋活動減少率まで実現可能かを明らかにするとともに,どの程度の筋活動のコントロールが可能かを明らかにする.これは,例えば通常起立の80%の筋活動量と設定した場合に実際の筋活動がどの程度ばらつくのかを明らかにする.2つめは,毎回の起立動作において臀部が座面より離れる前の情報から起立速度を予測し,その速度に合わせて制御を行う支援装置の実現および実験協力者による評価実験を行うことである.通常起立動作の平均速度を用いて一定速度で行う制御方法に比べて毎回速度を予測して制御を変更した場合の有効性を評価する.3つめは,ディスポーザブル電極を用いない筋電計測用サポータの試作と評価である.従来筋電位の計測にはディスポーザブル電極が用いられることが多い.しかしながら,毎回使い捨ての電極を用いる事や自身で筋の位置を特定して電極を装着することは実用面で大きな障害となる.そこで,装着するだけで筋電位の計測が可能なサポータの開発を行う.これはまず,複数の実験協力者の筋について超音波計測器を用いて対象の筋が分布する領域を調べる.次に全ての実験協力者で筋電位が可能な位置を特定する.次に,導電性の布やゴムなど使い捨てではない素材により電極を作成し,先に先に明らかにした特定の位置に装着する.最後に作成したサポータを用いて支援装置を駆動し評価を行う. 次年度は最終年度であるため,上記開発・評価を行いつつ,論文投稿や学会発表により本研究の成果について公表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の回数が予定よりも少なく、実験で必要な消耗品の購入が全く発生しなかったことが理由である.来年度はその分実験回数が増えるため,この費用を用いて補う予定である.
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