深部組織に損傷を起こす褥瘡Deep Tissue Injuryでは、筋や脂肪などの軟部組織の厚み情報が重要である。これまで、厚みを取得するために、MRIやX線検査装置、超音波診断装置が用いられてきた。また、近年では、MRIや超音波を用いたエラストグラフィ技術が実用化されたことで、生体弾性率の推定による病変検知が可能になり、褥瘡治療・予防分野での活用が期待されている。しかし、これらの方法は、高額であり専門的な資格が必要である。また、座位計測が困難であり携帯性がないことから、在宅医療での適用が難しい。申請者はこれらの課題を解決するため、体圧分布測定装置と逆問題解法を用いた軟部組織厚み推定技術を開発してきた。本研究では、この軟部組織厚み推定方法を改良し、縦弾性率を同時に推定する技術を開発する。本技術は、安価・簡便・携帯性が高いという特徴から、大病院をはじめ、在宅医療や小規模医療機関での活用が期待できる。 一年目は縦弾性率推定解法の確立と精度評価の実施、二年目は異なる縦弾性率が直列に接続された多層ばねモデルの構築と多層軟部組織の縦弾性率推定アルゴリズムの開発、三年目はせん断弾性率を考慮した縦弾性率推定アルゴリズムの開発を計画した。本年度は、二年目までに構築した縦弾性率推定アルゴリズムを発展させ、せん断弾性率を考慮した縦弾性率推定アルゴリズムの開発を目標とした。 せん断弾性率の実験では、作製したゲルファントムの内部にセンサを配置し、せん断弾性率の実測値を取得する計画であった。しかし、再現性にセンサ構造由来のばらつきが多く、実測によるせん断弾性率の取得が困難であった。構造が異なる複数種類のセンサを使用したが、問題は改善できなかった。本研究では、実測値を利用した縦弾性率推定解法を特徴としたが、せん断弾性率推定解法については、シミュレーションなどのように実測値を使用しない手段が必要である。
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