研究課題/領域番号 |
16H07394
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大月短期大学 |
研究代表者 |
冨田 知世 大月短期大学, 経済科, 助教 (40783725)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2020-03-31
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キーワード | 進学校 / 新制度派組織理論 / 教師 |
研究実績の概要 |
本研究は、東北地方の複数の進学校を事例とし、制度化された教育実践が他校へと普及していくメカニズムを明らかにすることを目的としている。 2016年9~12月(研究中断まで)に実施予定であった調査は、1990年代に東北地方の各県教育委員会で実施された大学合格実績向上施策についての行政資料等の収集である。 しかし、研究申請後から研究費交付決定までの間に行った調査で次のような新たな状況が判明した。そのため、研究計画を一部変更し実施した。 新たな状況とは、すでに調査をしてきたA県のX高校の90年代に制度化された実践が「脱制度化」されつつあったことである。「脱制度化」は学校現場レベルと行政施策レベルで生じていた。本研究の調査対象期間である2000年代にX高校に勤務していたある教師に対して、インフォーマルインタビューを2016年7月に行ったところ、当該教師はX高校勤務当時にX高校の制度化された実践の「弊害」を感じていた。さらに、A県では数年後に県内の進学校数校に探究科を設置し、探究学習を本格実施することが決まった。この実践は90年代に制度化されたX高校の実践とは相容れないものとしてX高校の教師たちに認識されているものであった。それにもかかわらず、探究科の設置が決定したのである。加えて、探究科の設置が決定される以前に実施された2010年代前半の学力向上施策が「失敗」したとの評価が下されたことも「脱制度化」を捉える上では重要であることがわかった。 以上より、2000年代にX高校に勤務していた教師1名、2016年度にX高校で探究科設置に向けて動いている教師1名、2010年代前半に高校教育行政に携わっていた関係者1名にインタビュー調査を実施(2016年8~9月)した。ただし、本調査の成果発表は研究中断以前に行うことはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で記した通り、2016年9~12月(研究中断まで)に実施予定であった調査について一部変更して研究を実施してきた。調査結果を学会誌等へ投稿、学会で発表することはまだできていないが、得られたデータを整理し、論文執筆に取り掛かる準備はできている。また、そのために、改めて実践の「脱制度化」に関する理論研究を追加で行ってきた。その成果についても今後、執筆予定の論文に盛り込む。 「おおむね順調に進展している」と評価した理由は、研究計画を一部変更し、新たな調査を実施したため、当初予定していた調査計画がややずれ込んでいるからである。しかし、現在までの調査過程において、今後の調査対象へとつながる可能性をもつ人的ネットワークを築くこともできた。「研究実績の概要」で記した、2010年代前半の高校教育行政関係者は、他県の教育行政関係者とのつながりを有している人物である。今後の調査に向けた布石を打つことができたという意味で「進展」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は大きく以下3つある。脱制度化プロセスに関する成果発表とA県以外の進学校調査へ向けた準備として各県の教育施策調査、調査対象校へのアプローチを進めていくことである。 まず、現在まで実施した調査の成果発表に向けて、論文執筆、学会発表等の準備を進めていく。そのために、今後実施すべき具体的方策として、「脱制度化」に関する先行研究を整理し、A県X高校の実践の脱制度化プロセスを分析するための理論枠組みを構築する。理論枠組みを確立したのち、2016年8~9月調査で得られたデータ、またそれ以前に得られているデータを改めて分析し直し、実践の脱制度化プロセスについて研究成果を発表していくことを目指す。 それに加え、研究中断申請以前に、平成28年度実施予定としていた研究計画を遂行していく。1つは、1990年代にA県で始まった県教育委員会主導の大学合格実績向上施策と似た教育施策が、東北地方の他県で実施されたのかを調査する。実施されていた場合にはその内容、実施背景、実施に関わった関係者等の情報を整理する。ただし、すでに述べたように「脱制度化」という新たなプロセスの解明を調査計画に含めたため、調査対象県の数を絞る必要があるかもしれない。その場合、可能となる研究期間を考慮したうえで調査対象とすべき県の優先順位を決め、優先順位が高い県から資料収集調査を進めていくことで対応する。 対象とする県の優先順位をつけるために、調査可能な進学校の選定も同時並行で行う。そのために当初の計画通り、東北各県進学校の大学合格実績情報の分析を進める。また、すでにある人的ネットワークを頼りにアプローチできそうな進学校を選定していく作業も同時に行っていく。
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