本研究の目的は、高等教育進学者が拡大した1990年代に地方県の公立高校を中心に確立された「受験請負指導」が、人口減少期に入り変容を求められていることを明らかにすることである。 本研究では東北地方A県でトップ校と称される公立進学高校X高校を事例としてきた。2018年度~2019年度の研究によって、X高校では1990年代に制度化された「受験請負指導」が、2010年前後に変容(脱制度化)していったことを明らかにした。その背景には「受験請負指導」に内在する要因と、A県の高校教育政策環境の変化があった。これらの成果は、2019年6月発刊の日本子ども社会学会紀要『子ども社会研究』第25号および2019年6月に受理された博士論文(東京大学)にて発表済みである。 2019年度は、上述した後者の要因、人口減少期における地方県の高校教育政策の変化をとらえることを中心課題とした。A県ではX高校を含めた県内の公立進学高校への探究科・コースの設置を2019年度から進めている。この政策への転換に、人口減少期特有のロジックが見受けられことに本研究は注目した。当初、探究科設置政策は県内公立進学高校の受験実績の向上というロジックと結びついて導入されたが、国の地方創生政策の影響を受けて次第に地元定着を促すためというロジックも付与された。このロジックは地元の若者が希少化する人口減少期に特有のものであり、このロジックが登場する際には、1990年代の受験請負指導が若者を県外流出させる指導であったと再定位されていた。このように、人口減少というマクロな構造変化と、それに連動した政策環境の変化により、1990年代の「受験請負指導」は変容を求められていることがわかった。 なお、冒頭で示した研究目的は、研究の進展に応じて当初目的を修正した。
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