研究課題/領域番号 |
17H07212
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
設楽 彰子 朝日大学, 歯学部, 講師 (30508718)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2020-03-31
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キーワード | Cdc42 / 唾液腺 / 形態形成 / 細胞内輸送 |
研究実績の概要 |
本研究年度研究代表者は、RhoGTPaseの一種であり、上皮細胞極性形成の中心となって働くCdc42のコンディショナルノックアウトマウスを用いて、Cdc42が唾液腺腺房細胞の形態形成における役割を調べた。野生型マウスとCdc42ノックアウトマウスの発生過程における形態変化を共焦点顕微鏡で解析したところ、出生後5日後の腺房細胞において、腺腔側膜の形成に著明な抑制が認められた。この形成抑制は出生後も継続し、成長後のマウスにおいては、拡張した腺腔が認められるのみであり、細胞間に進展する細胞間小管と呼ばれる正常は管腔構造は観察されなかった。さらに野生型マウスでは細胞膜に限局して発現する、膜局在シグナルを持つ蛍光タンパク質が、Cdc42ノックアウトマウスにおいては、細胞内の小胞上で観察された。さらにこの小胞は初期エンドソームのマーカータンパク質と一部共局在したことから、Cdc42はエンドサイトーシスを抑制的に制御することが示唆された(Shitara et al., 2019)。さらに電子顕微鏡による解析から、研究代表者はCdc42ノックアウト腺房細胞において分泌顆粒の数が著明に増加し、小型化することを明らかにした。またCdc42ノックアウト細胞では、野生型の細胞では観察することができない、Dense-coreを持つ小胞が多く観察された。Dense-coreの電子密度には多様性があることから、Cdc42は分泌顆粒の成熟に関与することが示唆された(論文準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の準備として、研究代表者は研究協力者であるアメリカ国立癌研究所のRoberto Weigert博士よりCdc42 floxedマウスとアクアポリン5のプロモーターの制御下で唾液腺腺房細胞でのみCreリコンビナーゼを発現するアクアポリン5-Cre (AQP5Cre) マウスを入手し、交配してCdc42flox/ AQP5Creマウスを作成した。 初年度計画1:腺房細胞形態変化の顕微挙による観察 蛍光顕微鏡による解析から、Cdc42のノックアウトにより、顎下腺腺房細胞の腺腔側膜の形成が抑制されることが明らかになった。また本来細胞膜に局在する分子が細胞内の小胞上で観察されたことから、細胞内輸送の変化が示唆された。さらに電子顕微鏡による解析から、Cdc42の欠損が腺腔の形態だけでなく、分泌顆粒の数、形態を変化させることが明らかになった。分泌顆粒の形態形成・維持はCdc42の未知の役割であり、現在Cdc42の下流で働く仕組みを解析中である。本研究計画は順調に進捗している。 初年度計画2・3:腺房細胞の形態変化に伴い発現量が変化するシグナル分子およびCdc42依存性腺房細胞形成制御シグナル解析 免疫組織学的解析から、本来細胞膜に局在するタンパク質が一部初期エンドソームに局在することを明らかになり、Cdc42の欠損によりエンドサイトーシスが亢進することが示された。また、Cdc42ノックアウト腺房細胞における活発な小胞輸送を生体内イメージングにより明らかにした。今後のさらなる解析から腺房細胞の形態形成を制御するCdc42依存性の新たな輸送経路が明らかになることが期待される。申請書に記載した計画とは異なる実験手法を用いているが、計画は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で研究代表者らはマウス唾液腺腺房細胞におけるCdc42の役割をin vivoで解析することにより、以下の3つの知見を得た。1)管腔形態形成を制御する、2)分泌顆粒の形態形成または維持を制御する、3)エンドサイトーシスを抑制的に制御する。そこで今後はCdc42ノックアウト細胞における細胞内輸送の変化が管腔形態形成や分泌顆粒の形態形成・維持とどのように関わるのかを調べる。 1.エンドサイトーシス経路の解析:Cdc42ノックアウト細胞ではエンドサイトーシスが活性化している。エンドサイトーシスは、受容体依存性エンドサイトーシス、カベオラ依存性エンドサイトーシス、ファゴサイトーシス、ピノサイトーシスの4つに分類される。どの経路が活性化されているのかを生体内イメージングと免疫染色、電子顕微鏡による微細構造の解析などにより明らかにする。 2.細胞内輸送の定量的解析:我々はCdc42ノックアウト細胞の細胞質に細胞膜に局在する膜タンパク質を含む細胞内小胞を見出した。そこで、生体内イメージングにより小胞の輸送動態をリアルタイムイメージングにより解析し、Cdc42のノックアウトによりどの輸送経路が活性化するのかを明らかにする。 3.分泌顆粒の解析:我々はCdc42のノックアウトにより分泌顆粒が小型化することを明らかにした。分泌顆粒が小型化する原因として、分泌顆粒成熟の抑制と分泌顆粒の維持機構の破綻が考えられる。これまでの実験から研究代表者らは、Cdc42の欠損による分泌顆粒成熟の抑制を示唆する結果を得ている。分泌顆粒は未熟分泌顆粒同士の融合、顆粒内部の酸性化、積荷タンパク質の修飾・凝集および、未熟分泌顆粒から余剰な膜やタンパク質を除去するなどといった、様々なステップを踏んで成熟する。Cdc42どの成熟過程を制御するのかを生化学的、形態学的手法を用いて明らかにする。
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