研究課題/領域番号 |
18H05560
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
後藤 友香理 静岡大学, 教育学部, 講師 (10732951)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ピアノ・レッスン / ゴールドベルク山根美代子 / 指導言語 / 質的研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、演奏家養成を目的とした高度に専門的なピアノ・レッスンにおいて、どのような音楽的やり取りが行われ、弟子の音楽理解へとつながっているのかを、社会調査の手法を用いて明らかにするものである。ピアノ・レッスンでは「わざ言語」とも言うべき、感覚を共有するもの同士でないと通じない特殊な言い回しが多用されている。特に、本研究で注目するゴールドベルク山根美代子(1939~2006、以下山根)は、自らの演奏解釈を言語化し相手に伝えることに心血を注いだピアノ教育者であり、「音楽的語彙」を研究する上でふさわしい指導者であると判断した。 初年度となる平成30年度は、山根の音楽的バックグラウンドおよび指導歴を整理し、分析材料となるレッスンの録音資料の収集を行った。そして、レッスン内容を逐語化し、質的分析ソフトウェア(MaxQDA)を使って内容分析を進めている。その結果、「指導言語」というタームを用いながら、山根の指導者としての個性や指導の観点を説明することに成功した。 山根の発する指導言語は、楽譜に印刷された音の羅列の裏にある、作曲家の特徴を見出さそうとした結果生まれた言葉であり、それは和声やフレーズの構造、時代の様式といった自然な音楽的欲求に裏打ちされた演奏解釈である。そして弟子たちは、山根の指導言語の根底にある意味を読み解く作業を通して、本来言語化できない音楽の本質を認識し、それを理解しようと自らに問い直すことで音楽的な成長を遂げていた。 この成果は、次年度はじめに論文(『東京音楽大学大学院博士後期課程 2018年度博士共同研究A報告書《モデルと変容》』)および国内学会(日本音楽表現学会 第17回大会)で発表が確定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
産後休暇の取得により今年度の研究は11月半ばからのスタートとなり、実質4か月半しかなかった。また録音資料の多くは録音状態が悪く、逐語化の作業も難航している。しかし、その中で得られた逐語録は、山根の指導観や音楽的語彙の意味を探る上で非常に有益な情報を多く含んでおり、今後はテープ専門業者への委託もしつつ、さらに多くの資料の逐語化を行い、分析を進めていきたいと考えている。 また、逐語化作業の遅れを取り戻すべく、当初は次年度に予定していた聞き取り調査を一部前倒しして今年度行った。
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今後の研究の推進方策 |
学内の制度で研究支援員の雇用が認められたため、次年度は逐語化作業をさらに効率的に進めたいと考えている。また、山根の弟子たちへのインタビューも数件予定している。 初年度は、山根のレッスン内容はどのようなものだったのか、そしてその中で山根の音楽的語彙がどのように作用していたのか、という山根の発信したものの意味を探る研究が主だったが、次年度はそれに加えて弟子たちへの聞き取り調査を行うことで、山根が発した言葉を弟子たちがどのように受け止め音楽理解へとつなげていたのか、という弟子の側から見た山根の音楽的語彙の意味付けも行っていく予定である。
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