本研究の目的は、プラトンの形而上学説を、アリストテレスの報告をいったん保留して、プラトンの著作内部から解明することだった。具体的には、それは、アリストテレスに依拠してプラトンの著作の中に「イデア論」を読み込もうとする従来の解釈を棄却して、新たにプラトンの著作から「真実在説」を読み取るべきであると論証することだった。最終年度の主要な成果はこの問題を直接取りあげるもので、2019年9月にOxford大学のワークショップで発表した“Separation and the Ontological Status of eidos/idea”にまとめられた。そこで私は、イデア論解釈を採用する学者たちが「内在主義者」と「離在主義者」に分かれて意見の一致を見ない原因がまさしく「イデア論」という枠組みにあることを指摘し、『パイドン』と『国家』においてeidos/ideaは真実在とその可知的像を包括する「知性対象」(noeton)と同じ身分をもつことを論じた。この原稿は今後さらなる検討を加えた後に海外の学術雑誌に発表する予定である。次に、『古代哲学研究』51号に発表した論文「発展主義解釈と新統一主義解釈:プラトン研究の最近の動向から」において、この問題と密接に関わる問題として、プラトン哲学の「発展主義解釈」の検討を行った。それは、プラトン哲学の全体像についての19世紀後半以降支配的な解釈であり、「イデア論」解釈の背景におかれ、それを強固に支えてきたものである。私は、20世紀の終わり頃から指摘されはじめたこの解釈に含まれる諸問題を整理・解明することによって、それに対抗すべく出現した「新統一主義解釈」が真剣な考察に値することを論じた。
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