研究課題/領域番号 |
19K20772
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福谷 彬 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (40826004)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 朱子 / 綱目 / 通鑑綱目 / 南宋 / 諸葛亮 / 正統論 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に収集した諸史料を基礎に、『綱目』の執筆に至る時代状況の把握に関わる研究を進め、シンポジウムで現在の研究状況について口頭発表を行ったほか、学術シンポジウムを共催し大いに知見を得ることができた。 まず、岡山大学文学部で「漢籍と中国史」と題する学術シンポジウムで、「歴史解釈と「忠臣」の誕生―張ショク「諸葛武侯伝」をめぐって―」と題する口頭発表を行った。本発表では、朱子の『綱目』執筆よりやや早い時期に、朱子の親しい友人である張ショクが記した「諸葛武侯伝」という諸葛亮の伝記について、裴松之注に記される諸葛亮故事の取捨選択という観点で分析した。張ショクは、陳寿の諸葛亮本伝と裴松之注に記される諸葛亮故事の中から、諸葛亮の儒者的な面を印象付ける記述をつなぎ合わせる一方、それまで法家的な側面を示すとして否定的に扱われることのあった酷薄に見える記述を、道学者が重視する「天理と私欲の弁別(=義利の弁)」の文脈の中に落とし込むことで、全体として儒者的な風貌を持つ人物として描き出そうとしていることを指摘した。朱子は、その後、孟子―董仲舒―諸葛亮―張ショクという「義利の弁」を明確にしたとする儒者の系譜を説くに至るが、「諸葛武侯伝」で描かれる諸葛亮像こそが、朱子が『綱目』で描く、理想的臣下としての諸葛亮像なのであった。本発表ではそのことを論じた。 また、国際学術会議である第三屆「儒家經典的跨域傳釋國際學術研討會」を古勝隆一准教授とともに共催した。会議では、いくつかの朱子学に関わる発表が行われたほか、『綱目』に関する発表も行われ、活発な討論が行われ、発様々な専門からの幅広い知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
張ショクの「諸葛武侯伝」を通じて、南宋の諸葛亮尊崇をめぐる時代状況がある程度見えてきたが、現存する史料の制約から、諸葛亮の武廟配祀に至る議論は不明な点が多く、諸葛亮尊崇運動全体の流れの中での道学思想の位置を解明するのは至らず、隔靴掻痒の感がある。
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今後の研究の推進方策 |
現存する史料の制約から、宋代の諸葛亮尊崇の全体像を解明するのは困難だが、道学者関係の史料の中から朱子の諸葛亮像の特徴を導き出すことは可能と思われる。今後は陳亮などの同時代の諸葛亮崇拝者の諸葛亮像などとの比較をすることを検討している。 また、これまで研究してきた『綱目』の成立状況を踏まえた上で、朱子の死後盛んになる「綱目学」の発展の意義についても考察していきたい。朱子の蜀漢及び諸葛亮に対する「肩入れ」は、それ自体が『綱目』の読まれ方に大きな影響を及ぼしたと考えられるからである。 朱子の『綱目』執筆は何が理解され、何が誤解されて受け止められたのか。今後はそういった問題意識も視野に入れて研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究資料の電子公開が現在進行形で進行している状況で、海外出張の必要性が低下する一方、研究の予想外な進展により継続的に研究資料の購入や研究成果の外国語への翻訳が必要なため。
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