1. いわゆる「エピメニデスのパラドックス」をめぐって、インドならびに玄奘門下の諸論師の議論を追い、ディグナーガの論理学体系の背景と展開を明らかにすることができた。令和元年11月18日から19日にウィーンで開催されたシンポジウムでは、ディグナーガ(5世紀)とバルトリハリの見解の違い、そしてディグナーガの見解が玄奘門下の文軌および神泰(ともに7世紀)に部分的に伝承されている可能性を指摘した。さらにそれを『國學院雑誌』中の論文にて公刊した(令和2年3月)。また、プラジュニャーカラグプタ(8世紀)によるバルトリハリ批判が、ディグナーガの見解を意識した上で行われていることを、程なく刊行される論文中で明らかにしている。 2. (1)「欠減」(nyuna)の概念のディグナーガの著作中にみられる展開に、『順中論』で言及されるサーンキヤ学説との関連が予想されること、(2)「欠減」はディグナーガの体系においては終始、討論術的な要素の強いものであること、そして(3)ディグナーガの『集量論』での見解が玄奘門下(神泰および基)にも伝承されていたことを、近日中に刊行される論文中で明らかにした。 3. 筑波大学の小野教授とオーストリア学士院の室屋博士と協力し、『集量論注』の第6章の校訂テキストの出版準備を行なった。また、同第4章についても令和2年3月19日から21日に筑波大学で研究会を行い、第4偈導入部までの最終チェックを行なった。
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