本年度は、昨年度に続きローシーが来日以前に創作したと思われるバレエ《クオ・ヴァディス》関係資料の分析を進めた。とくに音楽関係資料の整理と検証を中心に進め、結果として楽曲の全曲復元が実現し、録音資料として残すことができた。現存する複数の楽譜資料のうち、作曲者直筆サインの日付等からオリジナルと思われるピアノ手稿譜をもとにプロのピアニスト2名に楽曲復元の研究協力を依頼し、8月末に音楽スタジオで録音を行った。録音にいたる過程では、演奏家としてのみならず指揮者としても国際的に活動する研究協力者から楽曲分析、同時期の音楽的傾向や背景など多くの貴重な指摘をいただいた。同作を手がけたサム・カドウォースについては、19世紀末~20世紀初頭にかけてロンドンのミュージックホールやヴァラエティ劇場で音楽活動をしていたらしいということ、ローシーが帝劇で上演した《マリー・ド・クロンビツレ》の音楽を担当したということ以外、詳細がわかっていない。ローシーが日本で上演した舞踊作品はもとより、ヴァラエティ劇場で上演されたバレエ作品には楽譜が現存していない事例が多数ある。こうした中、今回全曲復元が叶ったバレエ《クオ・ヴァディス》の音楽資料は、当時のロンドンを中心とするバレエやその日本移入を試みたローシーの上演作品をより立体的に解明するうえで重要な資料となる。現在、得られた音楽資料と作品台本、振付ノート等をあわせて分析・考察を進めており、論文投稿に向けた準備を行っている。 ほかに、昨年から延期となっていた国際学会がオンラインで開催され、筆者は前年度までの調査研究をもとにローシー日本滞在中の上演活動の実態と同時期欧州のバレエとの関わりについて報告を行った。ここではパフォーミングアーツに限らず、日欧文化交流など様々な分野の国内外研究者から、今後の研究に生かしうるフィードバックを得ることができた。
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