研究課題/領域番号 |
18H05571
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
藤井 千佳世 中京大学, 国際教養学部, 助教 (10569289)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | フランス科学認識論 / 個体 / 医の哲学 / 倫理 / カンギレム / シモンドン |
研究実績の概要 |
「フランス科学認識論の倫理学的射程に関する研究」という本課題において、本年度の研究のテーマは、カンギレムとシモンドンの科学認識論の倫理学的意義を検討することであった。この観点から次の研究を行なった。 1)カンギレムの個体主義と医の哲学の関連を研究。この研究から以下の点が明らかになった。カンギレムは、平均化、一般化をよしとするような健康概念、またそこからの逸脱が病気であるというような考え方に対し、価値論的な生物学的個体概念から、健康や病気を理解する。ここに内包される倫理学は、一方で実験的治療に対し肯定的であり、他方で、QOL、人格主義、健康の自己管理という点に批判的であるという点から反生命倫理学的である。さらにカンギレムは、正常なものの追求、人間主義的良心が倫理的であるとは考えない。根本的に、一般性や普遍性は倫理を支えないと考える。規範の拠り所は集団の要請でも、普遍的デテルミニスムでもないと考えている点で、反功利主義的かつ反義務論的である。さらに、カンギレムの医学哲学では、匿名の何かではなく具体的な個人に向き合うことが強調されるので、この点は徳論と重なるが、カンギレムが規範の拠り所になると考えているのは病人の苦しみであり、このような考え方は、徳論が拠り所とするようなアリストテレス倫理学(優れたものを模範にせよ)とも根本的に異なる。以上から、カンギレムの医学哲学における個体主義が内包する倫理学が、従来の規範倫理学や、またそれに基づいて展開される生命倫理学の考え方と根本的に異なるものであるということが明らかになった。 2)翻訳シモンドン『個体化の哲学』(法政大学出版局)を出版。 3)『現代フランス哲学・思想事典』(ミネルヴァ書房)のシモンドンの個体化論、シモンドンの個体化と深く関わるドゥルーズ哲学、カンギレムの科学認識論の解釈に関わるザクらの項目を担当し、原稿を提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の計画では、カンギレムの医の哲学の倫理学的意義の研究として、以下の研究を行う予定であった。i)カンギレムの医療関連の執物を渉猟する。ii)複数の論文で、部分的に述べられている生命倫理学及び生命倫理学が拠する功利主義やカント倫理学に対するカンギレムの批判点をまとめる。iii) カンギレム哲学における規範形成力としての主体概念、また彼の個体主義の考え方が、特に科学者の 「責任」という概念とどのように結びついているかを、検討する。このうち、特にiii)の、カンギレムの個体主義と責任概念との連関に関する研究はあまり進められなかったので、今年度は、特にこの点に焦点を当てて研究を進めたい。また、前年度の研究を進める中で、カンギレムの個体主義とシモンドンの個体化論の重なりが見出された。この重なりを、今年度は特に倫理的意義という観点から比較していく。
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今後の研究の推進方策 |
前年度のカンギレムの個体主義と医の哲学の関連に関する研究の成果をまとめて、6月に学会誌に論文を投稿する予定である。今年度は、特にシモンドン哲学の倫理学的意義に焦点を絞りながら研究を進めていく。この研究の中で、従来の研究においてあまり言及されることがなかった、カンギレムの個体主義とシモンドンの個体化論の比較も行う。この研究との関連で、昨年度出版したシモンドンの『個体化の哲学』において収録できなかった、翻訳の底本の付録部分の翻訳も、研究会を開催し進めていく予定である。シモンドン哲学の倫理学的意義に関する研究は、12月までに論文にまとめ、学会誌に投稿する予定である。
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