研究課題/領域番号 |
19K20781
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
藤井 千佳世 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 助教 (10569289)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | シモンドン / ネオテニー / 科学 / 倫理 |
研究実績の概要 |
「フランス科学認識論の倫理学的射程に関する研究」という本課題において、本年度の研究目的は、カンギレム、シモンドの科学認識論の倫理学的射程を明らかにすることであり、この観点から次の研究を行なった。 1)昨年度の研究課題であった、カンギレムの医の哲学の倫理学的意義の研究の発表準備。これは2020年3月に開催予定であった日仏哲学会で発表する予定であったが、新型コロナウィルスの影響のため2020年9月に延期になった。 2)シモンドンの個体化論の倫理的射程に関する研究。この研究では、次の点を明らかにした。①所謂個体を個体化の途上にある一つの位相とみなすシモンドンの考え方は、生物学におけるネオテニーという仮説(この仮説に基づくと発達の仕方の時間的な変化が生物の形態の特異性を決定づけることなる)に負うところが大きい。②シモンドンは、物理的個体化と生物学的個体化、生物学的個体化と心理学的個体化の関係をネオテニー化(個体化のスピードの減速)として理解し、この観点から哲学史上の伝統的な問題である心身問題の解決を試みた。③ネオテニー化の対概念は老化であり、自らの環境に対する適応の幅を広げるための変化であるネオテニー化に対し、老化とは、個体化の減速ができないために環境に対する適応力を失うことと考えられる。④シモンドンの倫理観は、価値―規範、社会―共同体、人間-機械、位相としての個体-オートマトンという対概念から形成されるが、これらの対概念は、ネオテニー化を老化の対極とみなす、シモンド哲学固有の生命観に基づいている。以上の観点から、シモンドンの個体化論と倫理学の体系的研究を行い、この研究成果を2020年2月に開催された第一回エピステモロジー・ワークショップにて発表した。 3) 2020年2月に鹿児島大学で開催された大学院生向けの研究倫理教育ワークショップにて「科学と社会」をテーマに講演を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2019年度は、1/カンギレム、シモンドンの科学認識論の倫理学的射程の研究とともに、2/現代生命科学が要請する新しい個体概念の問題との連関において、西洋哲学に伝統的な考え方とは異なる個体概念を提起しているストア派やスピノザの倫理学の哲学史的位置づけの研究を進める予定であった。 しかし2019年度は、10月に所属機関を変更したため、通常であれば研究を進める大学の夏季休業期間に、当初の研究計画通り研究を進めることができなかった。科研費も、所属機関間の以降の手続きに時間がかかり、9月半ばから11月半ばまで使用することができなかった。3月に発表する予定であった学会が、新型コロナの影響により2020年9月に延期された。以上の理由により当初の研究計画に大幅な遅延が生じた。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年3月に日仏哲学会春季大会にて発表予定であった「カンギレムの医学哲学における個体主義とその倫理学的射程」に関しては、2020年9月の日仏哲学会秋季大会にて発表することが決まっている。 シモンドンの個体化論の倫理学的射程に関する研究は、シモンドンの技術論の倫理的射程を視野に入れながら、研究を深化させ、論文を学会誌に投稿する。 2019年度に研究を進めることができなかった、西洋哲学に伝統的な考え方とは異なる個体概念を提起しているストア派やスピノザの倫理学の哲学史的位置づけの研究に関しては、4月現在論文にまとめている途中であり、近いうちに学会誌に投稿する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の後期から所属研究機関を移動したため、研究室の引越しの関係で、前任校の研究室に書籍や備品を増やすこともできず、通常であれば研究を進める大学の夏季休業期間中である8月、9月に研究費が使いにくい状態であった。さらに事務手続上の問題で、科研費を前任校から現在の所属機関に移行するのに時間がかかり、9月中頃から11月の中頃まで科研費が使えない状態であった。さらに、春季休業期間中に参加予定であった三つの学会が新型コロナウィルスの影響のため延期となった。旅費に関しては、延期となった学会が2020年度開催される際に用いる。物品費に関しては、2019年度に遅延が生じた研究計画を2020年度に進めるために必要な、フランス科学認識論関連の文献、西洋哲学史関連の文献、倫理学関連の文献を入手するために用いる。また物品費は、学会発表などにおいて配布する資料の印刷のために、用紙代や、プリンターのカートリッジ代として使用する予定である。
|