本研究は研究期間内に、カナガナハッリ大塔を中心とする考古学的出土品に対して(1)実地調査による実測と資料収集、(2)新出した出土品の資料整理ならびに基礎史料の更新、(3)図像表現の文献資料への比定という三つのアプローチを行う。 (1)については、平成30年度の実地調査で生じた不十分な部分を補うため、再度カナガナハッリ大塔の実地調査を行った。特に、これまでの調査で見送りにしていた欄楯柱の蓮華文様を中心に、細部の装飾文様の撮影に従事した。その他、コルカタ・インド博物館、ムンバイ・チャトラパティ・シバジ・マハーラージ博物館、カリムナガル博物館、グルバルガ博物館、トゥルシ博物館、バールフット遺跡にて調査および関連資料の収集を行った。バールフット遺跡の調査では、近隣に点在するバールフット村、バタヤ村、アカハ村、マイナハ村、マタラ村、バタマラ村、パタオラ村、ケムラガル村、バラタラオ村の祠堂もあわせて調査し、バールフット遺跡から移設された彫刻の有無や設置状況を記録できたことは大変に有益であった。 (2)令和元年度は、カナガナハッリ大塔の実地調査によって得られた実測・配置記録の資料整理を重点的に行った。新出の出土品や碑文の画像データを編集ソフト(フォトショップ)を用いてカタログ化し、カナガナハッリ大塔を構成する各部材ごとの配置図を図面作成ソフト(CAD)で作成することで基礎史料の更新を行った。 (3)(1)と(2)で得られた研究資料を活用し、カナガナハッリ大塔から新出した成道図の図像表現を考察した。南インドに特有の成道図には、ブッダの存在を暗示する空の椅子に向けて満瓶を掲げたり、満瓶の水を注ぐ神々が描かれていることに着目し、この満瓶の用途を文献資料の用例から明らかにした。研究成果は「南インドにおける成道図の図像表現―満瓶をてがかりとして―」と題した論文として発表した。
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