研究課題/領域番号 |
18H05587
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
松原 文 (松原文) 立教大学, 文学部, 助教 (70827245)
|
研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
|
キーワード | ドイツ中世文学 / アーサー王物語 / パルチヴァール / ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ / ガーヴァーン / クレティアン・ド・トロワ / 騎士 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、中高ドイツ語で書かれたアーサー王物語作品の変容を論じた研究文献を収集・参照し、本計画の軸となるガーヴァーン像の分析の切り口を設定した。その上で、13世紀初頭から半ばまでの各作品、すなわちアーサー王物語を文学作品として発展させたクレティアンの諸作品と、これを翻案してドイツ語圏にアーサー王物語を移入したハルトマン・フォン・アウエの『エーレク』および『イーヴァイン』、ヴォルフラムの『パルチヴァール』、古仏語の原典なしに創作されたハインリヒ・フォン・デム・テューリーンの『王冠』におけるガーヴァーン像を分析し、属性や付随するモチーフの歴史、翻案におけるハルトマンとヴォルフラムの自由度、ヴォルフラムの創作物の後代への影響を大枠において把握した。第二に、『パルチヴァール』の後半を占めるガーヴァーン物語を分析した。ヴォルフラムは原典であるクレティアンの『ペルスヴァル』からケルト神話に由来する「秘密」のモチーフを受け継ぎ、拡大した。原典では作品全体との連関なく唐突に短く言及された謎めいたモチーフを、ヴォルフラムは物語全体と有機的に結び付けている。古いモチーフを利用して強められた主人公とガーヴァーンの対比、またそれを通じてヴォルフラムが再考を促している騎士の美徳概念「誠実(triuwe)」について検討した。第三に、ガーヴァーンの冒険における主人公パルチヴァールの隠れた関与を分析し、主人公の二重化というクレティアンの新たな試みに対するヴォルフラムの応答を考察した。宮廷文学における馬の描写について先行研究を踏まえたうえで、馬を通じた二人の騎士の結びつきを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究の参照と『パルチヴァール』におけるガーヴァーン像分析をおこない、31年度以降、ヴォルフラム以後のアーサー王物語作品を分析するための基盤を得たため、順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
31年度はハインリヒ・フォン・デム・テューリーンの『王冠』を中心に、『パルチヴァール』以後のアーサー王物語の分析に取り組み、作者の意図や文芸をめぐる状況の変化の考察を目指す。まず『王冠』をはじめとする「古典」の後の時代のアーサー王物語についての評価や位置づけを整理するため、二次文献を収集・参照し、論じ尽くされていない点を把握する。その上で、『王冠』におけるアーサー王の機能、主人公ガーヴァーンの人物像、美徳概念の描写に注目し分析を進める。また、これらの項目についてハルトマンやヴォルフラムの諸作品、あるいは『王冠』と同じ時期に書かれたシュトリッカーの『花咲く谷のダニエル』との比較考察をおこなう。また、教訓詩や英雄叙事詩とのジャンル横断的な影響関係の考察を試みる。
|