第二次世界大戦後のドイツ語圏文学における代表的諸作家のテクストを、「詩学」という観点から再検討することを試みとし、主にU. ヨーンゾン、Th. ベルンハルト、P. ハントケらについて研究成果を出した。 ヨーンゾンについては、研究の具体的な着眼点であったところの「言説制度としての詩学講義および詩論的テクストの文芸的契機」に関する論考を、共著書『固有名の詩学』(法政大学出版局)において発表した。これは市販される書籍としては日本語で初の本格的なヨーンゾン論となり、当該専門領域における学術的意義を有する。 ベルンハルトについては、近年とりわけ英語圏で注目されつつある初期中編『アムラス』について、「フラグメント」という詩学的な着眼点から、日本独文学会でのシンポジウムにて口頭発表し、原稿を加筆・訂正したものを『オーストリア文学』に投稿した。こちらも日本語でなされる初の本格的な『アムラス』研究となり、当該専門領域における学術的意義を有する。またベルンハルトについては、第一長編『凍』の邦訳書について書評を『図書新聞』に寄稿し、一般読者に批評的な紹介を行うという社会的な意義を持った。 ハントケについては、2019年にノーベル文学賞を受賞したことを受け、彼の文学的営為の総体を総括する研究を行なった。これに関しても、『図書新聞』の年末特集号や、同作家の邦訳出版に力を注いできた同学社のPR誌『ラテルネ』に寄稿することによって、学術的な成果を社会的な還元するという意義を果たした。
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