研究課題/領域番号 |
19K20807
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩崎 華奈子 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (30822887)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国古典小説 / 出版文化 / 封神演義 / 明末清初 / 周之標 / 挙業書 / 尺牘 |
研究実績の概要 |
本年度は、『封神演義』周之標序の分析、および周之標の事績に関する調査・研究を行った。 ①周之標序の分析:『封神演義』の一部の版本に附された周之標序の精読・分析により、『封神演義』刊行の時期・場所等を推定し、また周之標という人物の視点を通して、当時の出版者・読者が、この小説をどのような作品として享受していたのかを考察した。この序文は、『封神演義』に描かれる殷周革命を借り、明代末期の社会問題を意識して書かれたものと考えられる。このような序文が掲載されている本書は、同様の問題意識をいだく書生階層を読者に想定して出版されたと推定した。この成果は論文「『封神演義』周之標序の検討」(『和漢語文研究』第18号、2020年11月)にまとめた。 ②周之標の事績に関する調査・研究:周之標の編纂した書簡文例集『四六カン朗集』(カンは玉偏に官)は、中国人民大学図書館の蔵する稀覯本である。実見調査、および本書の編纂に関わった人物の調査を通して、周之標の書籍編纂活動における人脈を明らかにした。特に重要な発見として、本書に収録されている書簡とその評文から、周之標が申時行(万暦年間の内閣大学士)の甥孫であったことが判明した。申時行の孫の申紹芳は周之標の著作に深く関与した人物であり、彼らの著述活動は姻族関係に裏打ちされたものであったと考えられる。また、明末の通俗文学の旗手として名高い馮夢龍が申紹芳に宛てた書簡も収録されており、彼らの交友関係も明らかになった。周之標と馮夢龍は申紹芳を介して交流を持ったと推測される。この成果を第310回中国文藝座談会(九州大学中国文学会、2020年9月)において発表し、論文「周之標『四六カン朗集』初探――編者の声望と人脈の考察を中心に」(『中国文学論集』第49号、2020年)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、本研究課題の出版背景に関わる分野については完了した。 校勘による本文の継承関係の解明については、重要な校勘材料である無窮会織田文庫所蔵の版本1種の閲覧・複写が叶わず、途中で作業が停止している。該本については複写を蔵する東京大学東洋文化研究所にて閲覧のうえ、部分的な校勘を行うことも計画していたが、新型コロナウイルスの流行により実施できなかった。また緊急事態宣言の発出による在宅勤務要請、子の保育施設休園などの影響も大きく、特に本年度前半は研究時間の確保が困難であった。よって補助期間延長の申請を行い、次年度も継続して本課題に取り組むこととした。
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今後の研究の推進方策 |
無窮会織田文庫所蔵本の閲覧・複写請求を引き続き行う。また、これと同版とみられる版本の一部(全10巻のうち第8巻のみ)が、中国国家図書館に蔵されており、その書影はオンラインで公開されている。これを用いて他の版本と校勘を行い、織田文庫蔵本の特徴を窺う手掛かりとしたい。 校勘の実作業は、次年度6月末までには全て完了する計画である。その結果の分析を9月末までに行い、年度末までに学会発表および論文により成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの流行によって、国内外への移動が制限されたため、文献調査および学会への参加が不可能となった。また、在宅を余儀なくされたことにより、研究活動そのものが満足に実施できない状況が長く続いた。 翌年度は、主に複写文献の入手・製本、研究推進のための図書購入、文房具などの物品費として使用する計画である。また、10月に学会参加する予定があり、そのほかに移動の制限が緩和された場合は必要に応じて文献調査に赴くため、その旅費が必要である。
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