本年度は、これまでの研究期間で実施した『封神演義』主要版本の校勘結果について、整理・分析を行った。最終年度において検討対象としたのは、現存最古のテキストである舒本(①)、①を覆刻改訂した清籟閣本(②)、本衙蔵板本(③)、九州大学濱文庫蔵本(④)の4種である。これらは文字の大幅な節略が行われていない文繁本であり、また②~④は一般に「四雪草堂本」と称され、明末清初の文人チョ[衣偏に者]人獲(四雪草堂は書斎名)の校訂を経た同系統のテキストと認識されていた。確かにこれらの版本の間ではストーリー展開に関わるほどの差違はない。しかし本研究で文字レベルの異同を確認・検討することにより、版本ごとに特徴や傾向の存することが明らかになった。①との文字異同数は②、③、④の順に増加するが、①→②→③→④という単純・直線的な継承関係ではない。③④の本文は近しいが、未発見のテキストを底本としてそれぞれ成立した可能性があり、④はさらに挿入詩や回末批評を節略する文簡本的傾向があることから、上記4種のなかで最も後出の版本と考えられる。従来、版心下に「四雪草堂」と刻する④を四雪草堂系諸本の原本とする推測もあったが、再考が必要であろう。また②は①を覆刻のうえ改訂した版本だが、一部の文字修正に③④の底本を参照した可能性があり、かつ序文も①にある李雲翔序を載せず、③と同様に周之標序を「原序」として掲載する。②は外見上①に次ぐ古い版本のようであり、本文の文字も①に近いが、改訂や刊刻の時期は定かでなく、扱いに留意すべきテキストである。以上の成果を、論文「『封神演義』四雪草堂系版本三種について」(『中国文学論集』第50号、九州大学中国文学会、2021年12月)にて公表した。 研究期間全体を通して、『封神演義』の序文二種とその撰者、および版本の校勘と分析を行った。これにより本小説の文学的研究の基礎を固めることができた。
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