研究課題/領域番号 |
18H05603
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
佐藤 恵 獨協大学, 外国語学部, 専任講師 (50820677)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | .ドイツ語史 / 歴史社会言語学 / 歴史語用論 / 言語の標準化 / 言語規範 |
研究実績の概要 |
本研究は、東上部ドイツ語圏出身のモーツァルト家の人々が1755年から1857年まで三世代にわたり書き綴った書簡文をデータとして、言語意識史の観点から言語の標準化のプロセスを解明しようとするものである。すなわち、モーツァルト家の人々が書簡の中でどのような社会言語学的・語用論的変数(出身地や教養の程度等の社会的属性、書き手と受け手の親疎関係、書簡の趣旨等)に従って東上部ドイツ的異形と標準的異形とを書き分けていたのかを再構成し、彼らの言語意識から言語史の展開に迫ることが、本研究の目的である。そのために研究代表者は、モーツァルト家の人びとが書き綴った書簡文を集積し、機械可読のコーパス「モーツァルト三世代書簡60万語データ」を作成した。モーツァルト家の人びとに関わる史実と照合しながら、方言的異形の出現に関してこのデータをコーパス言語学の方法で分析すると、以下のことが確認できた。 高い教育を受けた父レオポルトの書簡では、(東中部ドイツ語型の)標準的異形がほぼ一貫して使用されているのに対して、レオポルトほど教育水準が高くはなかった母アンナの書簡には、非標準的な方言的異形が目立つ。ただ、レオポルトも常に標準的異形を使用したわけではなく、家族宛の書簡には方言的異形が散見される。それはとりわけ、愛犬や食事の話など、打ち解けた話題について書く際に観察される。教養ある父から教育を受けたアマデウスも姉も、標準的異形を全般的に用いている。それが、アマデウスの息子たちの世代になると、兄弟間の書簡においてすら方言的異形が見当たらなくなる。弱音eが脱落した話しことば的な語形は、モーツァルト家の人びとにおいては、家族宛の書簡にほぼ集中している。ただ、家族以外であっても、アマデウスはごく親しい知人であった男爵夫人に対して、またレオポルトもごく親しい知人であった出版業者と家主に対しては書簡でこの異形を用いている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の推進に必要なコーパスを完成することができ、40ペアの異形(東上部ドイツ的異形 vs 東中部型の標準的異形)についての調査を滞りなく進めることができた。得られた調査結果をもとに、統計的な分析も順次行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、調査項目(東上部ドイツ的異形 vs 東中部型の標準的異形)として主に音韻、形態の分野から分析対象とする異形40ペアを選び出して調査を行った。今後はさらに調査項目を広げて、文法(「不定詞 + tun [英 do]」構文の使用、二重否定など)、語彙についても調査を行っていく予定である。これまでは書き手6人それぞれの言語使用にどのような特徴があるのか、大きく傾向を把握するために量的な分析が中心であったが、今後は質的な分析も進めていきたい。具体的には、書簡の書かれた年代、書簡の送り手、書簡の受け手、書簡の用件という観点から、主に次のような点を明らかにする。 (1)ある時点を分岐点にして、一個人が異形選択の方針を大きく転換したことはあるか、(2)受け手が誰である場合に、東上部ドイツ語的異形が多く出現するのか、(3)書簡がどのような趣旨である場合に、東上部ドイツ語的異形は多く出現するのか。 また、18世紀の上部ドイツにおける印刷語に関する先行研究(Roessler 2005等)と本研究の調査結果を比較し、異形によって使用状況にどのような違いがあるのか、個人の私的な言語使用と、書籍に書かれた公的な言語使用の違いについても検討していく。
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