父レオポルトのドイツ語が標準文章語に最も近いのは、教育の程度の違いに由来すると考えられる(社会言語学的変数)。ただし、父レオポルトも、書簡の内容や文通相手によって非標準的な東上部ドイツ語的異形を交えて書いている(語用論的変数)。標準形と方言形の書き分けに上記のような社会言語学的・語用論的変数(教養の程度や世代、書き手と受け手の親疎関係、書簡の趣旨等)が関与していたことを、当時の書簡文から読み解くことができた。さらに、モーツァルト家三世代の書簡文を分析することで、18世紀中葉以降、東上部ドイツ文章語から東中部ドイツ語型の標準文章語に切り替わっていくプロセスを個人の言語使用に見て取ることができた。
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