研究実績の概要 |
本研究はロシア語の接頭辞を用いた効率的な語彙学習法を検討している。接頭辞は多義的であるが、学習時間が限られた状況においてすべての意味が学習上等価値ではない。 主にпо-の分析を中心に行なったが、例えば、アカデミー文法は1. 結果に及ぶ動作(послушать「聴く」)、2. 短時間の動作(покурить「しばらく喫煙する」)、3. 開始を表す動作(подуть「吹き始める」)、4. 全て、多数の対象に及ぶ多回・順々の動作(поглотать「多数を幾度にも飲み込む」)5. 軽度の動作(попортить「少し損傷する」)を挙げている。Jandaらの研究ではпо-の意味として上記5以外を扱っている。他にも、1から5以外に特徴の付与(порозоветь「バラ色になる」)と表面のカバー(позолотить「金色にする」)などの、より細かな記述を提示する接頭辞の学習書もある。 上記意味の中で学習上重要な、実際に高頻度に生起する意味を確認するために、自作の100万語コーパスからпо-の付いた動詞をすべて抽出した。次にSketch Engineでコンコーダンスを保存し、それに基づいて実際のテキストにおいてどの意味でпо-が生起しているかを確認した(分析対象は生起頻度が50以上の約3,000例に限定)。結果、その内訳は上記1が約65%、3が約24%、約11%が2であった。その他の意味は、分析対象外の低頻度の動詞内に見られたが、その数は限定的であった。したがって、学習価値の高い意味は1と3であると言える(または2も含める)。1の用法は体のペアの学習時に意識させるべきであろう。ただ、3は少数の超高頻度の移動動詞(пойти等)に付いて現れるため、по-をあえて開始を表す接頭辞として導入しなくても良いかもしれない。また、初級のうちは1から3以外の意味を学習の中で扱う価値は低いと思われる。
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