本研究は,外国籍の子どもなど日本語教育の支援を必要とする中学生が社会科教科書を読むためにどのような言語的な難しさがあるかを文法的な面を中心に研究するものである。中学校教科書の内容は子どもたちの身近な生活を離れたより広い社会・世界のことが扱われ,その内容が書きことばの日本語で述べられる。そのため,教科書の日本語は彼らの初期日本語指導で学ぶ日常会話中心の日本語とは大きく異なっており,子どもたちが教科書を読んで教科内容を理解することには困難がある。本研究では日本語支援を必要とする中学生が教科内容を学習していくことを支援する日本語教材を作成するために,社会科教科書の言語面(特に,文法面)に関する研究を行なうものである。 本年度は,社会科教科書を扱う4出版社の教科書データについて,形態素解析を行なったデータを中心に,困難点を探るために述語となる動詞の分析を行ない,その成果について発表し,論文の作成を行なった。この分析では,次のことを述べた。地理の教科書では世界や日本の諸地域について具体的に述べられているものの,その地域の一般的・習慣的なことがらとして記述されており,非過去形を用いてテンスとしては「超時」となることがらが述べられていた。また,モノを主語とし,レル・ラレルの形の述語で述べる文も多く用いられていた。さらに,名詞述語文がその段落を読むためのトピックとして用いられていることや,名詞と変化の局面を表わさない「なる」が組みあわさった場合と名詞述語で述べる場合との違いについても述べた。そして,このような述語形式と記述内容との関連をしることは,教師や支援者にとって,生徒が教科書を読む際にどの部分に注意すべきか,どのような支援や教材作成をすべきかということにつながっていくものだと考える。
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