研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会と言語が大きく変化した近代から現代にかけて、言語使用の実態とその変遷を明らかにすると共に、資料の形式・表記・文体が、メディアの発達、読者層の変化、社会の変化とどのように関わりながら変化したかを明らかにすることである。そのために、幕末明治初期に誕生し、形式・形態・表記・文体すべてにおいて急速に変化・発展しながら現代へと途切れなく続く「新聞」というメディアを研究対象として選択し、資料の形式や言語の表記についての、大量かつ精緻な実態把握に基づき、言語変化の様相と、その背景としての人間・人間活動の変化変遷を関連付けて論じることを試みることとした。 本年度は、昨年度に引き続き、新聞の言語実態を把握するために用いるコーパス(テキストを言語研究に利用できる形で電子化したデータベース)の構築に取り組んだ。現代まで存続する新聞で、発行部数が多く庶民を読者層とする「小新聞」(土屋礼子『大衆紙の源流明治期小新聞の研究』,世界思想社,2002年)の一つ、『読売新聞』を採録対象とし、発刊の明治7(1874)年から一定期間おきに、1年につき8~10万語程度を含む、約60~80万語分のコーパスを作ることとし、本文の文字入力(外部業者への業務委託による)と整備を実施した。整備に際しては、書誌や記事範囲の情報と共に、本文の文字をできる限り精緻に写すことを目指し、日本語を記述する文字のセットとして最新の国際規格であり変体仮名を含む「Unicode11.0」を用いて、Unicodeのコードポイントを付与する情報タグ付けを施した。 整備したコーパスを計量的に分析した結果、活版印刷における変体仮名利用の実態と近代を通じての変遷の一端を把握することができた。また、変体仮名を含む表記の変化と並行して生じていた、新聞の形態や内容の比重の変化、文体の変化(平易な談話体から文語体へ)も明らかになった。
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