本研究は、二十世紀米国社会における市民の軍事動員と高等教育の普及との思想・制度的連関を明らかにすることで、従来の研究において、米国史上の短期的逸脱とされがちであった米国の戦争経験を、長期的な米国社会の発展の中に位置づけることを目的とする。平成30年度は、中国北京市での研究報告(北京大学招待講演、中国人民大学国際シンポジウム報告)を通じ、米国外から米国社会を研究する視座につき、現地の研究者らと意見交換を行った。国際的な研究ネットワークの拡大に向け、非常に有益な意見を得られたと考える。また、米国ワシントンDC(米国連邦議会図書館、米国国立公文書館、ジョージタウン大学図書館)とニューヨーク市(コロンビア大学史料室、ニューヨーク公共図書館史料室、コロンビア大学内専門図書館6館)で史料調査を行い、現地の研究者と意見交換を行った。
本年度の主な成果として、本研究の視座の重層化と地理的拡大が挙げられる。まず、全米各地の大学に設置された予備役将校訓練課程 (ROTC)に関し、全米州立大学及びランドグラント大学協会と、全米黒人ランドグラント大学協会とでは、第二次世界大戦参戦前夜の戦争協力に対し大きな温度差があることが判明した。人種の違いが個人の高等教育の機会と従軍経験とにどう影響したかをさらに考察する必要がある。第二に、米領ハワイに設置されたROTC等の事例を手掛かりに、考察対象を米国本土から米領を含めた米国統治へと拡大する必要を痛感し、新たに調査を開始している。
令和元年度より日本学術振興会特別研究員(PD)に採用されることとなったため、本助成は半年間という短い研究期間となったが、本助成により、非常に有意義な研究活動を行うことができた。今回意見交換を行った海外の研究者と、今後共同研究を行う話も進めている。本助成で得られた知見を活かし、本研究をさらに深められるよう今後も力を尽くす所存である。
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