本研究は15世紀南ドイツを対象に、領邦間で結ばれた政治的関係を考察することにより、中世後期における神聖ローマ帝国の政治秩序とそのメカニズムについて新たな知見を得ることを目指している。先行研究では領邦の競合関係や対立が強調されてきたが、本研究は、近隣領邦間で発生した紛争の調停や隣り合う複数領邦内で流通していた貨幣のコンロールなど、領邦の地域的な協力関係に注目する。 本年度は、関連する研究文献と史料の収集を行い、その読解・分析を開始した。領邦間コミュニケーションの契機となった主要な案件として、紛争解決と貨幣問題を想定しているが、本年度は特に前者について調査・分析を進めた。具体的には15世紀前半に複数の系統により分割統治されていたバイエルン公領をめぐり主にバイエルン-インゴルシュタット公ルートヴィヒを中心に繰り広げられた紛争とその調停をケーススタディとして取り上げた。この紛争は解決まで30年以上かかり、近隣の他領邦による調停が繰り返された。さらに国王やバーゼル公会議を通しての調停もあったが、そうした超域的権力から介入があった際にも、しばしば近隣の政治権力の関与が見られた。この史料調査および分析の成果について、11月に西洋中世ガヴァナンス研究会で口頭報告を行った。また領邦間コミュニケーションの手段であった書簡や使節についても文献の読解を進め、中世後期における領邦間の関係構築や外交活動への理解を深めた。
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