研究課題/領域番号 |
18H05631
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
ロペス フリエタ 京都外国語大学, ラテンアメリカ研究所, 客員研究員 (80830067)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | メソアメリカ / 世界観 / ピラミッド / 耐震性 / トラランカレカ / 考古科学分析 / イデオロギー / 建築資材 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、巨大ピラミッドを建造し得た古代メソアメリカ文明の建築技術力とその発展過程を、考古科学分析、実験考古学的考察、そしてコンピューター・シミュレーション解析を基に解明することにある。 現在までピラミッドに関する研究は、その機能や帰属時期の推測、建築様式の特徴と変化、建築資材の同定、必要労働力の推定、建築作業過程の復元に主眼が置かれていた。一方、ピラミッド建造物の耐久・耐震設計に関する研究は、現在まで実施されてこなかったと言っても過言ではない。メキシコ中央高原におけるピラミッド型建造物の巨大化は、政治・経済発展に支えられた大量の労働力と建築材の獲得が要因となり、達成可能になったとの考えが主流であった。しかし、この解釈は一般論であり、学術的に考察され導き出されたものであるとは言い難い。 ピラミッド型建造物の巨大化は経済発展に支えられ達成可能であったとの従来の考えから離れ、ピラミッドは社会の安寧を象徴するという当時の世界観を重視することから出発する。アドベ(日干しレンガ)の耐久性を求めた技術開発や、これを基に構成された内部構造の設計改良という試行錯誤の結果であるとの仮説を立て研究を実施する。 それは、古代人にとって、安全上の問題点からではなく、イデオロギーの観点から考察する必要があると考えるからである。メキシコ中央高原の各遺跡に存在するモニュメント建造物は、天上界・地上界・地下界を繋ぐ「聖なる山」のレプリカとして機能しており、この崩落は社会秩序の崩壊に至ると考えられていた。さらに、モニュメント建造物は特定の周期ごとに古い時代の建造物を覆い(建造物の死)、新たに増築された(建造物の再生)。 日干しレンガの品質改良と建造物内部構造の試行錯誤の変遷を理解することで、先行研究では提示されなかったデータと解釈を提供する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、トラランカレカ遺跡でピラミッド建造に利用されたアドベ(日干しレンガ)と顔料そして土壁の成分分析を行ってきた。サンプルは、当遺跡最大規模のセロ・グランデ・ピラミッド、ピラミッドC、そしてピラミッドCから見て南に位置する複数の基壇部から、発掘調査によって採集したものである。また、アドベと土壁の資材がどこから持ち運ばれたものであるのかを理解するために、遺跡内の約10箇所において人力アースオーガーを用い、土を回収し同様の成分分析を実施した。 メキシコ国立自治大学・物理学研究所でPIXEとXRD分析を行い、資材は遺跡内で獲得されたものであることが判明した。一方、時期や建造物の違いにより、アドベと土壁の成分組成は異なることも理解できた。この違いが社会統合や発展によるのかどうか今後解明していく。 同研究所で実施したSEM/EDSとXRD分析からは、セロ・グランデ・ピラミッドとピラミッドCのアドベと土壁には珪藻が含まれていたことが理解できた。しかし、他の建造物からは確認できなかった。前二者のピラミッドはトラランカレカ社会の中で重要な公共建造物であり、この含有が建造にあたり社会的にどのような意味があるのかを考察することが今後の課題である。 現在までアドベは、天日干しによって製造されたと理解されていたが、TGA分析によって、少なくともトラランカレカで利用されたアドベには、熱加工されていたことが判明した。これは、強度を求めた結果であると考えている。今後の調査では、ピラミッド内部において、熱加工されたアドベと非熱加工アドベがどのように配置されているのかを研究対象とし、耐震性についての考察を深めていく。 上記の研究活動の内容と結果、そして当初予定していた研究内容から判断し、進捗はおおむね順調であるとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的達成に向け、以下に分け分析を行う。 ① 2019年4月~2019年8月(考古科学分析):メキシコ合衆国プエブラ州に位置するトラランカレカ遺跡(前800年~後300年)から出土したアドベ48点の成分組成分析を行う。メキシコ国立自治大学(UNAM)の物理学研究所で、実体顕微鏡分析、薄片電子顕微(Thin section)、X線回析(XRD)、蛍光X線(XRF)、フーリエ変換赤外分光光度計・全反射測定法(FTIR-ATR)、ラマン分光法(Raman)の分析手法を基に、時期ごと、ならびに場所ごとによって異なると推測できるアドベの組成を詳細に把握する。この分析結果の類似性を基に、サンプルを幾つかのグループに分類する。 ② 2019年9月~2019年11月(耐久度分析):上記大学・工学部において、分類されたグループごとに、圧縮強度、引張強度、弾性率、吸水率のデータを取得する。現在までの調査によって、2種類の大きさのアドベが発見されている(62×26×10cmと76×26×10cm)。このサイズの10分の1スケールの大きさに加工したものをサンプルとして使用する。①と②の分析結果を基に、時期ごと、また同じ建造物であっても設置場所によってどのような類似性または相違が認められるのかについて考察する。 ③ 2019年11月~2020年3月(モデル分析・最終解釈):上記から得られるデータを基に、AutoCAD上で建造物の内部構造を復元し、耐久・耐震シミュレーション分析を行う。部屋状補強土壁の単位は統一されておらず、内部構造を完全に復元することは不可能である。このため、複数のモデルを作成し比較分析を行い、最適モデルを提示する。
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