研究課題/領域番号 |
18H05636
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 夏来 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (40823381)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 山岳湿地 / 地形分類 / 地すべり |
研究実績の概要 |
八幡平火山の菰ノ森地すべり地内に形成された長沼で,掘削調査を実施した.菰ノ森地すべり地には多数の湿地が形成され,湖沼や湿原,これらの中間的なものまで多様な水分状態のものが共存している.長沼は閉塞凹地に形成され湿地の半分に水域が残る湿地である.湿地中心部(水域に近い場所)と縁辺部の湿原部分で堆積物を掘削した.堆積物分析の結果,堆積物は有機質シルト層から泥炭層へと漸次的に変化し,放射性炭素年代測定およびテフラ分析の結果,湿地は7000年以上前に形成され,堆積速度は湿地縁辺部ほど大きかった.以上のことから,長沼は埋積によって湿地が湖から湿原へと安定的に遷移していることが明らかとなった.また,同一地すべり地内の大谷地では,湿原だった場所が約5500年前の局所的な地形変化によるせき止めで湖となり,約3300年前には排水による急激な水位低下で湿原化したことが以前の研究で明らかになっている.同一地すべり地内でも立地条件や周辺の地形変化の有無によって,湿地の発達過程は様々であると言えた. 八幡平火山地域の湿地のうち,火山原面上の積雪涵養型湿地と浅層地下水涵養型湿地,地すべり性湿地から,典型的な湿地を各2か所ずつ選定し,そのうち4湿地で地温,土壌水分,電気伝導度を測定するデータロガーを2018年10月に設置した. 環境庁が平成5~6年にかけて実施した第5回自然環境保全基礎調査(湿地調査)のデータベースを利用して日本全国の湿地の立地環境について地形的な観点で検討した.標高別の湿地面積密度は標高200m以下の低地と標高1600~2000mの山地で高い値を示す傾向があった.また,山地地域の湿地は低地湿地に比べて小規模で数が多いことが特徴的であった.山岳湿地に着目すると,湿地数密度は第四紀火山がその他の山地に比べて3倍以上高く,第四紀火山が日本における重要な湿地の形成場所の一つであることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
八幡平火山の大規模地すべり地に形成された湿地(長沼)の掘削調査は終了し,現在は分析を進めているところで,当初の予定通り進行している.また,火山原面上に形成された積雪涵養型湿地と浅層地下水涵養型湿地を対象とした調査については,研究対象とする各2湿地を選定し,2018年度から土壌水分,地温,電気伝導度の観測を開始した.現在は,これら4湿地の掘削調査に関わる許可申請手続きを進めているところで,当初の計画通りに進行している. 火山原面における積雪の遍在性について地形と森林植生の観点で明らかにしようとするテーマについては,現時点で詳細な積雪深分布データと空中写真を入手したところで留まっており具体的な解析はこれからである.しかし,前述のとおり,日本全国を対象とした湿地の立地環境について解析を進め,一定の成果を上げることができた.
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今後の研究の推進方策 |
湿地堆積物を用いた研究については,今後,残りの掘削調査を実施するとともに,堆積物分析を引き続き進めていく.特に,地すべり地内に形成された長沼は,放射性炭素年代の測定点数を増やすとともに,花粉分析も実施して湿地の発達過程をより詳細に復元し,成果を論文にまとめる予定である. 湿地の土壌水分等の観測については,7月の融雪後に観測データを回収して機器メンテナンス実施し,さらに夏から10月の積雪前にかけて観測を継続する.1年間の観測データをまとめ,最寄りの気象観測データと照らし合わせて,土壌水分変動への融雪水や降水等の影響を評価する予定である. 火山原面における積雪の遍在性の検討については,特にオオシラビソ林の疎密に着目して積雪深の関係を明らかにする.GIS上で,歪み補正後の空中写真を利用してオオシラビソの立木密度を計算し,積雪深分布(もしくは衛星画像から判読した残雪分布)との関係について考察する.また,積雪深分布と湿地分布との関係も明らかにする.
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