八幡平火山地域の高標高域に位置する雪田型湿地と平坦地流入型湿地,地すべり性湿地にデータロガーを設置して,1年間にわたり地温,土壌水分,電気伝導度を計測した.雪田型湿地は,土壌水分が降雨に細かく反応し,電気伝導度が安定的なことから,主に天水(融雪水と降水)が涵養源であると考えられる.特に三ツ沼東湿地では,周辺からの融雪水の供給が6月下旬の梅雨前線による多雨期まで継続することが,湿潤環境の維持に大きく寄与していた.平坦地流入型湿地と地すべり性湿地は,積雪に覆われた後も地温の低下が緩やかで,時期によって電気伝導度が大きく変化することから,天水と地下水の両方で涵養されると考えられる.さらに,雪田型湿地と平坦地流入型湿地の各2か所で掘削調査を実施し,湿地の形成時期と気候変動との関係について検討した.雪田型湿地はいずれも泥炭層の下層に埋没土層が存在し,最上部の泥炭層の堆積開始年代はそれぞれ約2200年前と約1500年前で,いずれも気候温暖期であった.したがって,数百年~数千年スケールの気候変動に応答して湿地が出現と消滅(拡大と縮小)を繰り返した可能性がある.一方で,平坦地流入型湿地の形成年代は約3400年前と約6500年前で,雪田型湿地と比較して気候変動に対して安定的に存続していた.形成年代が古い湿地は集水域が広く,湿潤環境を維持するために有利な場所に位置していた. 前年度に掘削した菰ノ森地すべり地内の長沼の堆積物について花粉分析をおこなった.その結果,草本植生は抽水植物から湿原植物への変化が認められ,池沼から湿原へと緩やかに変化していることが明らかとなった.大規模地すべり地は,初生的な活動の後も再活動や局所的な地形変化が続くことがしばしばある.同一地すべり内に形成された湿地の発達過程や発達速度は,局所的な地形変化や排水路の形成の影響で様々であることを確認した.
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