経済成長の著しい東南アジア諸国では,急速な都市化や産業の集約化に伴い,農村地域の社会システムが徐々に変化している。とりわけベトナムの山岳農村では多くの少数民族世帯が造林業に参入しており,生業のモノカルチャー化が進行している。一見すると造林業という現金収入源を獲得し貧困から脱したようにみえる少数民族世帯だが,実際には生活に様々な不安定性を抱えているのが実情である。災害や経済状況の変化に柔軟に対処できる高いレジリエンスを備えた生活構造の確立が急務であることから,本研究では,モノカルチャー化によって危惧される諸リスクへの対処手段としてホームガーデンにおける作物栽培に着目し,そうした人々の生存維持保障として維持されてきた生活習慣が現状も遺存している背景要因の解明を目指した。 前年度にベトナム中部ナムドン県の少数民族農村を対象地として実施した現地調査のデータをもとに,ホームガーデンにおける栽培作物構成を規定する要因を探る分析を行った。また,ベトナム山岳農村でホームガーデンにおいて多様な作物が栽培され,それらが救荒作物としても機能している実態をまとめ,その特徴を考慮した上で土地利用の多様度を明らかにする手法の開発を行った。さらに,ベトナム農村における緊急時の生存維持保障としてのホームガーデン利用の実態を,GIS解析および統計解析によって定量的・視覚的に示した。 また,現地有識者とここまでの研究成果について議論するワークショップを開催し,今後の現地の食糧支援について検討を行った。 本研究の成果から,これまで明らかになっていなかった現地の実情を地域住民や現地の行政機関をはじめとするステークホルダーにも理解できる形で可視化することができたため,より地域との親和性が高い形で支援策の改善に向けた提案を行うことが可能となった。 以上の成果は国内外の学会および国際セミナーにて発表し,論文の執筆を行った。
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