本年度はまず不足データを補うため集中的なフィールドワークを4月に実施した。その上でこれまで収集したデータの分析を行い、農村保育所の統廃合が進んだプロセスについて明らかにした。具体的には、農村地域の少子化に伴う農村保育所の定員割れが統廃合の契機とはなったものの、これまで農村保育所の存立を支えてきた地域住民が一枚岩ではなく、地区や世代、職業など異なる立場からの意見が交錯しながら、統廃合が進んだことを明らかにした。この成果は日本社会福祉学会第67回秋季大会にて報告した。また、前年度のフィールドワークで明らかにした農村保育所改革前後の保育所内の変化についてまとめ、台湾で開催された国際学会(The 20th Pacific Early Childhood Education Research Association International Conference)にて報告した。 研究期間全体を通して明らかとなったこととして、農村保育所改革において保育の質に対する多様な意味づけが肯定された背景には、農村保育所改革のプロセスにおいて異なる立場の人々が参加できる討論の場が多数設けられていたこと、その上での意思決定において多数決といった住民投票が行われなかったことがある。この多数決を行わない、すなわち多数派と少数派の分断をつくらない意思決定のプロセスとその背景にある討論あるいは話し合いの場に関して、さらなる議論の精緻化の必要性があるため、国内外の学会に参加し、政治や人類学を専門とする研究者と討論するとともに、研究ネットワークの構築を進めた。以上の研究成果は、制度設計側が進める標準化とその解釈をめぐる下からの異質化が交錯しながら進められる意思決定プロセスとして重要な視点になることを提示するものである。
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