最終年度となる本年は、2019年8月5日から8月21日および2020年2月27日から3月22日の二回にわたり、ネパール・ソルクンブ郡にて現地調査を実施した。8月の調査を通して、ソルクンブ郡南部における車道建設が予想以上に早く進行していることが確認できたため、予定を変更して2月もネパールにて調査をおこなった。ソルクンブ南部では、バスパーク予定地であり、2019年4月に一台目の車両が到達したカリコーラ村に焦点を絞り、工事の進捗状況と建設作業の様子の観察、新たな乗合ジープ路線の運航状況の確認、住民による車道と発展をめぐる語りなどを聞き取った。前年の開通前の調査では、おおむね肯定的であった車道に対する見解は、特に沿道のロッジ経営者などを中心にネガティブなものへと変化していることが確認できた。 成果公表作業としては、2019年6月の日本文化人類学会第53回研究大会や、8月にポーランドで開催されたIUAES inter-congress、2019年12月の白山人類学研究会などで口頭発表をおこなった。また本研究の成果は、2020年2月に刊行された単著『「シェルパ」と道の人類学』や、2020年6月刊行予定の日本ネパール協会(編)『現代ネパールを知るための60章』の第45章「シェルパの変容――ヒマラヤ観光を生きる人々」へも反映されている。 さらに2019年10月からは本研究を下敷きとして、国立民族学博物館の若手共同研究「モビリティと物質性の人類学」を代表者として組織し、世界の他地域における移動やインフラストラクチャーをめぐる事例との比較研究に道を開いた。
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