本研究の目的は、20世紀以降のフランス法における<<ayant cause>>概念の意義について探求することにあった。<<ayant cause>>概念は、権利義務の譲受人を意味する「承継人」概念と同視されることが多い。しかし、債務者から何らの権利の譲受をも受けていない一般債権者が債務者の<<ayant cause>>とされるなど、二つの概念には看過しがたい相違点があるのである。 本研究においては、この<<ayant cause>>概念の意義を、判決効や契約の効力という観点から分析し、一定の成果を得た。つまり、一般債権者は債務者の<<ayant cause>>であるが故に、債務者の締結した契約の効力が及ぶとされたり、債務者が受けた判決の効力が及ぶとされている。勿論、一般債権者が債務者の締結した契約によって直接に義務を負ったり、債務者の受けた判決の内容を履行する義務を負うわけではない。しかし、一般債権者は債務者の資産(patrimoine)から債権を回収しなければならないという利害関係を有する。従って、債務者が行う資産を変動する行為について、一般債権者はその影響を甘受せざるを得ない法的状況にあると言える。この利害関係こそが<<ayant cause>>概念を基礎づけている。 もっとも、上記フランス法の理解においては、重要な法学的前提が顕現していることも指摘しなければならない。特に注目されるのが、フランス法では、債務者が受けた判決を一般債権者が甘受しなければならいという意味で、判決は対世効を有するということである。これは日本法とは大きく異なるものであり、判決によって認められた権利義務の存否が対世的に通用するという前提が採られていることを示している。 この法学的前提の違いについて更に探求するということが、次なる課題として残された。
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