研究課題/領域番号 |
18H05649
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
住永 佳奈 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (60826519)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 所得課税 / 譲渡 / 信託 / 委託者課税 |
研究実績の概要 |
本研究は、実現主義に依拠する所得課税における、財産所有が終了する時における課税の公平を、[1]課税の契機と、[2]財産の種類の2つの観点から探究するものである。これにより、所得課税における実現の意義が明確となり、(1)納税者と財産の関係変化に基づく、課税の契機の再構成、(2)異なる取引間・異なる財産間での課税上等しい取扱い、の2つの意味で課税の公平が達成されることを目指す。 本年は、米国における生命保険信託における委託者課税を扱った判例を素材として、信託の委託者を被保険者とする生命保険契約に係る保険料を、信託財産から生じた所得を用いて支払う場合に、その保険料にあてられた所得は何を基準として誰に課税すべきと考えられてきたかを探究した。委託者が信託へ移転した財産は、法的には信託(の受託者)が所有する。その一方で、その財産から生じる所得は、信託の委託者の生命保険料として支払われることで、委託者の利益に資するとも考えうる。このような状況では、委託者の所有や支配を離れた財産から生じる所得について委託者へ課税することの根拠が問われる。この議論は、財産の所有者と財産から生じる所得の所有者とが異なる場合の所得の帰属の決め方や、課税単位の議論の基礎的考察として資する。 上記の問いについて、米国連邦最高裁判所判決およびその後の一連の裁判例の検討をもとに、連邦最高裁判所判決が課税の理由として挙げた、委託者による、財産から生じる所得の方向づけおよび、財産から生じる所得の受益のうち、受益だけでは委託者へ課税する要件として足りず、委託者が財産から生じる所得の方向づけをできるという要素は必ず要るのではないかということ、また、見かけは家族内での信託の設定や所得移転であろうとも、家族という関係性が存在するだけでは委託者へ課税するのに十分とはいえないと判断されていると考えられることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、本計画は(1)死における所得課税の妥当性と理論的整合性の検討、(2)ヒューマン・キャピタルへの投資とその喪失の考察の、2点を軸にして、それぞれについて、第1年度は、現在の法令および学説の状況を精査して議論の土台を作ること、すなわち米国および日本における、死によって生じる課税を理論と実務の両面から整理することと、所得課税におけるヒューマン・キャピタルの現在の取扱いを整理することをめざし、それらの成果を第2年度に取りまとめることとしていた。 現在までに、米国における生命保険信託における委託者課税の調査研究および研究報告と論文執筆を行ったことから、上記(1)については、調査から取りまとめまでの全段階を完了できたといえる。その一方で、上記(2)の調査および(1)と(2)を連関させた成果の取りまとめは、いまだ課題として残っている。 上記のことを総合的に考慮して、研究全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、次の2点が挙げられる。 第一に、所得課税におけるヒューマン・キャピタルの取扱いの調査および議論の整理を行う。ヒューマン・キャピタルは、人に関する多様な要素からなる概念であり、様々な切り口からの検討が可能なテーマである。たとえば、教育費や医療費の控除可能性といった、所得課税において伝統的・典型的に考察されてきた問題がある一方で、「ヒューマン」の概念の外縁の広がり(一例として、AI(人工知能)を所得課税上は人としてとらえるべきかという問題がある。自然人あるいは法人の意思を離れて、自然人あるいは法人と同様の所得獲得活動ができる。)などの先端的な諸問題もある。広範な調査を行ったうえで、論じるテーマを選定することをめざす。 第二に、死による課税と、その時におけるヒューマン・キャピタルの取扱いを連関させた議論を行う。ヒューマン・キャピタルはそれを身につけた人限りである(物や情報とは異なり、他の人へ引き継ぐことができない)という性質や、それと関連して、ヒューマン・キャピタルを身につけることの課税上の意味を検討する。主たる検討対象は議論の蓄積がある米国法とし、米国における議論を日本法の現状に当てはめるとどのような帰結があるか、また、所得課税の今後の展開はどのようなものと予想されるかを論じる。
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