本研究の課題は、同族会社の株式の相続を会社法全体としてどのように規律するべきなのかである。これを明らかにするために、本研究では、同族会社の株式の相続に関係し得る会社法上の諸制度についての研究を行い、これらの制度を横断的に検討する。 令和2年度は、同族会社の株式の相続に関係し得る会社法上の諸制度のうち、主に、株主名簿制度に焦点を当てて研究を進めた。会社法130条1項は、「株式の譲渡」を会社に対抗するためには、株主名簿の名義書換が必要であると規定している。この規律が株式の相続の場合にも適用されるのか否かについては争いがあるところ、この点について検討した。 具体的には、まず、その検討の準備として、日本における従来の議論を考察した上で、ドイツ法の比較法的考察を行い、日本における議論の対立点が、名義書換前に相続人による権利行使を認める必要性をどのように考えるのか、および、株主名簿による会社の負担の軽減をどのように考えるのかという点にあるということを明らかにした。そのうえで、これらの対立点を踏まえて、株式の相続を会社に対抗するために株主名簿の名義書換が必要であるのかについて検討した。具体的には、名義書換必要説を採用した場合と不要説を採用した場合に分けて、各場合の株主と会社の利害状況の比較・検討を行った。また、その際には、権利行使に基準日が定められている場合と定められていない場合を区別して検討するべきであるという視点を提示した。その結果として、基準日が定められていない場合には名義書換必要説を採用するべきであり、基準日が定められている場合には別に解釈や立法による対応が必要であるという結論を提示した。 以上の研究成果は、論文にまとめて公表した。
|