本研究の目的は,具体的嫌疑に基づかない行政調査に対する比例原則の適用の際の具体的な下位基準を定立することによって,個人のプライバシーに十分な配慮が保障されるとともに,行政に対して予測可能性を提供することで行政活動に必要十分な調査を行うインフラを整備することである。本研究は,当該目的達成のため、米国における嫌疑に基づかない行政調査に関する連邦最高裁判決および学説を検討するものである。 平成31度においては,米国法理であるadministrative searchをめぐる判例・学説について,犯罪捜査に対する法的規律との比較を行った。具体的には,第一に犯罪捜査に対する法的規律の理論的基礎を明確にし,第二にadministrative searchに関する判例・学説の理解がそれと同様に理解することが可能であるかを検討した。この検討にあたっては,前年度に行なったadministrative searchの法理に関する理論の歴史的展開に関する研究の成果を考慮した。これにより,少なくとも初期のadministrative searchの法理については,犯罪捜査と共通の理論的基礎を有すると考えられることを明らかにした。以上の研究成果は,合衆国憲法修正4条を母法とする憲法35条を有する我が国の行政調査の法的統制を考察する上で,立脚するべき出発点を示すものとして非常に重要なものである。これらの研究成果については,平成30年度の研究成果と合わせ現在公表中である。
|