研究課題/領域番号 |
18H05654
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
二杉 健斗 岡山大学, 社会文化科学研究科, 講師 (30824015)
|
研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
|
キーワード | 国際投資法 / 投資条約 / 投資仲裁 / 多国籍企業 / グローバル法 |
研究実績の概要 |
(2国間)投資条約が形成していると主張される「グローバル投資条約ネットワーク」が投資家の法的地位にいかなる影響を与えるのかという本研究課題の問いに答えるため、実討的検証を行なった。 第1に、投資家(特定の自然人または企業)が仲裁を申し立てる際に、自らの行為を理由として「責任」(法的保護の否定または縮減)を負う局面を特定し整理する作業を行なった。この点については一定の先行研究が存在するため(Douglas(2014);Vinuales(2016);菊間(2018)等)、それらに依拠しつつ検討を進めた結果、基本的な検討枠組みを得た。 第2に、第三者の行為からも、同様の帰結が当該投資家について生じる場合があるかを検討した。この点に関する実行の網羅的特定には至っていないものの、投資開始時・開始後の違法行為については少なくともMinotte v. Poland(2014)とChurchill Mining v. Indonesia (2016)が出発点になるであろうことを特定した。手続濫用については、古典的例としてCME/Lauder v. Czech(2001)が知られているが、新たな例としてAmpal v. Egypt(2016)、Orascom v. Algeria(2017)、Vodafone v. India(2017/2018)が特定された。 第3に、投資条約ネットワークの法的性質の理論的検討を行うための実証的素材として、Swissbourgh v. Lesotho(2017-19)を分析した。検討の結果、投資条約の改廃の合法性を、投資家に適用される他の投資条約に基づく仲裁で争える可能性があり、投資家の権利が個々の投資条約(のみ)ではなく投資条約ネットワーク全体により保護される可能性が示唆された。この分析については国際法研究会で報告を行い、現在公表の準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、研究上の問いが問題となる実践上の局面を実証的に可能な限り網羅的に特定することを目指したが、網羅的と言い得る検討には未だ至っていない。もっとも、この作業は、まとまった先行研究に乏しく、検討すべき事例が膨大な数に上り、かつ各事案の具体的事実の詳細な分析を要することから、一定の時間を要することが予想されていたところではある。他方で、手続濫用に関しては主たる事例(Orascom v. Algeria;Ampal v. Egypt;Vodafone v. India)は特定されており、その他の問題についても、少なくともモデルケースとなるべき事例(Minotte v. Poland;Churchill Mining v. Indonesia)の特定には至っている。 他方で、必ずしも当初の予定では初年度に行うとはしていなかった、グローバル投資条約ネットワークの法的性質に関する理論的検討については、この点に関して示唆的であり得る実行(Swissbourgh v. Lesotho)が新たに登場したことから、計画を一部前倒しして、上記の作業と平行して分析を進めることとした。本件からは、個別具体的な投資条約とネットワーク全体との間の関係一般に関しても重要な示唆が得られる。単一の事例の一般化には慎重さが求められるものの、具体的事案をもとに一定の理論的検討を行い、草稿に基づく研究会報告という形で他の研究者らの批判を受けることもできた。 以上より、一方で当初予定からの進捗の遅れはあるものの、他方で予定外の重要な進捗が得られたことから、全体としておおむね順調に進展していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、関連する実行の収集と分析を継続する。 並行して、現在までに収集した実行の理論的把握を進める必要がある。第三者の行為が、仲裁申立人たる投資家の仲裁手続内での法的地位にいかに影響するかは、実定法的には、当該手続段階を規律する個別具体的な実体または手続法の解釈問題である。かかる具体的規則の解釈適用の背後に、何らかの一般的傾向は存在するのか、存在するならば、それは何らかの統一的原則によって説明可能であるか、あるいはそうした解釈方法が全体として何らかの投資法秩序の有様またはあるべき姿を示唆していないかといった問いを明らかにすることが求められると考えている。 最後の点については、初年度の検討成果について他の研究者らと意見交換を行い、独立した論稿として公表する作業を進める。
|