本研究の目的は、作業関連ストレスに起因する精神疾患・障害を抱える労働者の法的保護として、補償の場面における法理が予防にどのように反映しうるかを検討することであった。使用者が講じるべき措置は、安全義務違反にもとづく損害賠償訴訟から具体化され、それが間接的に予防法理にも影響を与えうる。また、産業医のさらなる関与や安全衛生委員会等による集団的健康確保システムの充実は、使用者に把握困難な精神疾患の予防の実効性を高めうる。しかし、賠償法理から発展した安全配慮義務法理を、予防の局面に直接反映させることには限界があり、本研究課題をさらに推し進めるためには契約論的検討が不可欠であることが明らかとなった。
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