本研究の目的は、権威主義体制下の市民の政治参加、すなわち選挙という政治制度上の政治参加と、制度外の手段である運動が権威主義体制の存続や崩壊に与える影響を明らかにすることである。既存研究では独裁者が選挙を体制維持にどう活用しているのかに関心が集まってきたが、反体制派の行動選択に与える影響は検討が不十分である。体制側に有利に設計、実施される選挙では、選挙を通じた体制転覆は難しい一方、反体制的な運動が激化すると体制による抑圧の可能性がある。このような制度外/制度内の政治参加手段の選択に着目し、2つの政治参加手段が権威主義体制の安定性、崩壊のパターンに与える影響について理論を構築し、多国間を対象にした計量分析とマレーシアの事例分析を行う。 初年度は(1)選挙が運動(大衆蜂起)の発生に与える影響について、計量分析を行い、選挙の実施自体は蜂起の発生を促進するが、実施経験の蓄積は蜂起を抑制することが明らかになった。その結果を日本比較政治学会年次大会(仙台)で発表し、同学会の査読誌「比較政治研究」に掲載された(共著)。(2)選挙と運動の発生がともに権威主義体制の転換に与える影響についての計量分析を行い、International Political Science Asociationの年次大会(オーストラリア)で発表を行った。現在改稿中であり、英文の政治学査読誌に投稿する予定である。(3)事例として扱うマレーシアにおいて、現地調査を行い、大衆運動や野党連合に関する資料収集を行った。
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