研究課題/領域番号 |
18H05687
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保 研介 慶應義塾大学, 商学部(三田), 准教授 (40450506)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 競争政策 / 独占禁止法 / 企業結合規制 / 合併シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では,各国競争当局による企業結合審査(合併,買収等の競争効果に関する審査)において従来考慮されて来なかった,市場における競争に関する需要者(結合する企業の顧客)の認識変化に焦点を当てた理論的・実証的分析を行う。具体的には,企業結合の効果を予測するために実施する合併シミュレーション等の経済分析の結果が,需要者の認識変化を考慮する場合としない場合とでどのように異なるかを検証する。 2年計画の1年目である2018年度は,後記8で詳述するとおり(1)学術的な「問い」の精緻化,(2)先行研究の調査,(3)理論モデルの骨格形成,(4)実証分析の計画策定を行った。これらの活動を通じ,研究に必要な分析フレームワークとデータを整えることができた。具体的には,考慮集合というマーケティング分野の概念を用い,地域金融市場における事業性資金の需要者(主に中小企業)の金融機関選択行動が,地方銀行の統合前後でどのように変化するか(そして,その結果として事業性資金の需要関数がどう変化するか)を分析することとした。また,そのために用いる中小企業の金融機関選択行動を記録したパネルデータを購入した。 2年目である2019年度は,前年度に開始した理論的考察を完了させ,その成果を基に計量経済モデルを構築する。そして,2018年度に購入した中小企業の金融機関選択行動に関するパネルデータを使って,計量経済モデルを推定する。これらの研究成果が得られた段階で,論文執筆を開始する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)学術的な「問い」の精緻化: 企業結合の前後において,競争に関する需要者の認識がどう変化するか,また,それによって需要者の行動がどう変わり得るかについて検討を行った。その結果,考慮集合という概念に焦点を当てながら分析を進めることとした。考慮集合とは,需要者がどの製品を買うかを選ぶ前に,考慮対象として選定する製品群のことである。需要者は,製品をなるべく好条件で買えるように考慮集合を選ぶものと考えられ,そのためにはなるべく多くの企業の製品を考慮集合に含めようとするものと考えられる。企業結合による企業数の減少は,需要者の考慮集合を変化させる可能性があるため,企業結合審査において考慮集合の変化を検討対象に加えることには一定の意義がある。 (2)先行研究の調査: 考慮集合は元々マーケティング分野で考案された概念であることから,当該分野の先行研究を調査した。その結果,本研究に関係が深いマーケティング研究論文を複数本特定できた。また,近年では経済学(特に産業組織論)の分野でも考慮集合を取り入れた実証研究が進んでいるところ,それらの代表的研究を複数本特定した。 (3)理論モデルの骨格形成: 企業結合の前後で需要者の考慮集合が変化する様子を,理論モデルによって表すための作業を開始した。 (4)実証分析の計画策定: 実証分析の対象としては,地域金融市場を選定した。具体的には,地方銀行同士の経営統合前後で資金需要者である中小企業の行動がどのように変わったか,また,そうした行動を説明する上で考慮集合という概念がどれほど有用かを探ることとした。さらに,中部地方において2000年代に実行された地方銀行同士の統合事案に焦点を当てることを決めた。そして,当該事案の影響を分析するためのパネルデータ(中小企業の金融機関選択行動を記録したもの)を購入した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)理論モデルの完成: 2018年度に開始した理論モデル構築作業を継続し,2019年度の前半に理論モデルを完成させる予定である。この理論モデルを使うことで,個々の需要者ごとに見た需要関数と市場全体で見た需要関数の双方が,企業結合の前後で変化する様子を数理的に捉えられるようになると期待される。 (2)計量経済モデルの構築: 前記(1)で構築した理論モデルを基に,地域金融市場における中小企業の金融機関選択行動を表す実証モデルを構築する予定である。具体的には,前記8(2)で触れたマーケティング分野及び経済学分野の先行研究を参考にしながら,離散選択型の需要関数モデルを構築し,実証分析の中心に据える予定である。 (3)データの整理と分析: 2018年度に購入した中小企業のパネルデータを整理し,他のデータ(特に,地域金融機関の各種属性に関するもの)と接合することで計量経済分析に使うデータセットを構築する予定である。そのデータセットを使い,前記(2)で述べた計量経済モデルを推定し,2019年度の後半に分析結果を得る予定である。 (4)論文執筆の開始: 前記(3)で得られた実証分析結果を基に,2019年度の後半に論文の執筆を開始する予定である。
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