本研究の目的は、日本の上場会社による業績予想(以下、経営者予想)の開示が、資本取引に関する経営者の意思決定、すなわち財務的意思決定においてどのような役割を果たしているかを実証的に解明することにある。 2019年度における研究実績は以下の通りである。 第一に、昨年度から引き続き株式発行における経営者予想開示行動に関する分析を実施した。分析の結果、経営者は株式発行方法の違いにより異なる経営者予想開示行動をとることが示唆されている。具体的には、公募増資実施企業は非実施企業よりも悲観的な経営者予想を開示し、第三者割当増資実施企業はより楽観的な経営者予想を開示することを発見している。現在、アーカイバルデータを用いた分析を概ね完了させ、論文の執筆を行っている。 第二に、昨年度から引き続き自己株式取得における経営者予想開示行動に関する分析を実施した。分析の結果、経営者が自己株式取得時に経営者予想開示行動を変化させることは確認されていない。他方、経営者予想公表前時点において市場からの評価が相対的に低い企業ほど、経営者予想公表に対する評価が過小なほど自己株式取得を実施することを発見している。現在、アーカイバルデータを用いた分析を概ね完了させ、論文の執筆を行っている。 第三に、統合報告の導入が及ぼす影響に関する分析を実施した。経営者は経営者予想において来期の売上高や利益に関する予想を開示する。他方、近年の日本企業においては、より長期的な時間軸のもとで財務・非財務情報を組み合わせて企業の戦略や目標を外部者に伝える報告実務である統合報告が取り入れられつつある。統合報告が従来の企業報告とは異なる特徴を有する点に注目して、その導入がもたらす経済的影響に関する分析を行った。現在は企業の実体的利益調整に及ぼす影響について分析を行い、論文の執筆を行っている。
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