研究実績の概要 |
本研究は、日本の出生率を上げるための有効な手段を探ることを目的としている。研究者らは、原子力発電所の稼働という家計にとって外生的なイベントが、子どもを生む意思決定に影響を与えうると考えた。原子力発電所の稼働は、①雇用の創出と②地方自治体から住民への行政サービスの向上(莫大な補助金による)という形で、地元経済に大きな変化を及ぼす。研究者らは、①②が出生率に与えた影響について、1980年代後半以降に設置された原子力発電所に着目して、統計的因果推論による分析を行った。総務省から提供された1980年から2010年までの国勢調査の調査票情報(各世帯の回答内容)に、地理情報システム(GIS)による地理情報を付加したものが、分析対象のデータセットである。分析の結果、原子力発電所の稼働は、①雇用の創出という経路により、地元住民における出生率を10%向上させることが判明した。②の経路については、分析途中である。これらの分析結果は複数の学会で発表されたほか、working paperとして公表された(Hiroyuki Egami & Jorge Luis Garcia & Tong Wang, 2020. "Effective Boost to Fertility: Evidence from Operation of Nuclear Power Plants in Japan," GRIPS Discussion Papers 20-07, National Graduate Institute for Policy Studies.)。日本経済学会の2020年春季大会では、出生率を10%も押し上げる政策的介入はまれであり、分析結果は高い政策的インプリケーションを有すると評価された。
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