研究課題/領域番号 |
19K20894
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研究機関 | 千葉経済大学 |
研究代表者 |
宗村 敦子 千葉経済大学, 経済学部, 講師 (20828355)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 農産物流通 / アフリカ / 情報革命 / 戦間期 |
研究実績の概要 |
本研究は戦間期の南半球において、イギリス帝国内外の人的紐帯と海底ケーブルでの電信を駆使した農産物取引がどのように行われたのかを明らかにしようとした。これまでの南アフリカ共和国における資料文書館調査で、取引の痕跡を残す現地の農業新聞の市況報告の記事を利用し、1920年代にいかに多くの取引がなされたのかをデータベース化しつつ整理した。この市況報告では、様々な代理店が果物出荷者に特定の荷物をめぐる様々な価格の「オファー」をしていることを示し、植民地の農産物輸出産業が積極的に本国の主要取引市場に働きかけた様相を明らかにした。 本研究の特徴は、オファーされた価格とそれぞれの積荷を示す船便の航行スケジュールを紐付け、ケープ・タウンのテーブル・マウンテン港からロンドンに至るまでの具体的な取引工程を電信と船・港での3段階の積み荷の振り分けを示すことで立体的に説明したことである。従来であればケーブル事業の世界展開とは「イギリスの情報覇権」として論じられるところであるが、本研究は電信の商的「利用」を通じて本国と植民地との往復の様相を示す、情報革命のもう一つの側面を示すことにつながった。 またそれを説明する史的研究として、この取引をイギリス本国と南アフリカの果物出荷者との「仲介サービス」として進めたFed-Farmsという企業を取り上げ、経営史的な考察を加えた。同企業は、南アフリカ・ニュージーランド・オーストラリアの南半球自治領出身の農業組合組織によって開始された合同企業であるが、電信サービスの利用というアイデアには北米企業との関わりもあったことが明らかになった。このときシカゴ出身の果物輸出組合からもたらされたのは、もともとは大西洋横断ケーブルを使って取引されていた果物売買における短文信号で、それが南半球での事業でも応用された史実を示せたことが、本研究の最大の成果と言えるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は二度にわたるパンデミックの影響を受け、海外渡航という本来の使用目的での研究費の執行に至らず、繰越申請をすることになった。ただし2020年度末に、すでに本来の研究計画書に沿った研究テーマで英語論文をものしており、研究の進度は順調であると考える。 今年度の研究費の延長申請の意図として、申請者は現地の文書館調査の費用に充当するという本来の目的を維持し、発展的な研究テーマに取り組める態勢を整えることを重視した。特に本研究は、「南半球」というグローバルな視点が組み込まれているにもかかわらず、現状は南アフリカから見たグローバル・ヒストリーを描くに止まっているため、他2国から見た南半球の農産物流通機構がどのようであったのか、Fed-Farmsの設立目的は3国の間でどのような整合性を持っていたのか、などいくつかの論じ残された課題がある。今年度はこれらを検討することを視座に加え、最終的には農産物輸送業史と連動した情報革命について考察できるよう、研究計画を付け足したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまで集めてきた市況報告の資料をより整理し、研究素材として公開できるようなデータベース化を進める。現状ではエクセルデータで個人のUSBに保存されているのみであるが、この研究は先行研究との関連では南アフリカ海運業史や船舶史で登場する具体的な船舶名を含んだものであるため、具体的な積荷内容などを示すことで既存の研究コミュニティへの貢献可能性が非常に大きいと考え、いずれは一般に公開できるようにデータを整理する。もし可能であれば、そうした先行研究に挙げられる在南ア研究者と連絡をとり、現地調査の折にどのような項目別のデータ提示が理想的か、プライスデータと紐づけて使われる国際農産物取引用語が正確かどうかなどの監修・助言を受ける。 さらに今年度は海外調査の再開を目指す。とくに、南アフリカのみならず論じ残したオーストラリアについての資料収集も可能性に入れ、戦間期にどのような目的で「(南アだけではなく)南半球」Fed-Farmsが設立されたのかという、新しい課題について考察を進めたい。核心的な問いとしては「なぜFed-Farmsがオーストラリア側でも必要とされたのか」であるが、主要産業である羊毛業は別として、果物輸出産業ではケープタウン経由の船舶ルートへの乗り入れや、電信費用の分担など、いくつかの理由が考えられるため、それを裏付けるための一次資料が重要である。 海外調査の可能性は南アフリカ・オーストラリアそれぞれの検疫・国境開放状況を鑑みて今後判断するが、いずれにせよFed-Farmsの設立過程を書き残している一次資料を文書館調査を中心に蒐集したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、8月にパンデミックの変異種が南アフリカから報告され、非常に外出制限の強いロックアウト宣言が繰り返されたことによる。この間渡航可能性については事前に情報収集をして検討をしていたが、州境を超えての移動制約などの懸念があったため、年度末までに渡航を断念した。 今年度はこの分を渡航費用として繰り越し、発展的な研究課題の使用に繋げたいと考えている。本助成の進捗状況は、本来の課題設定がすでに論文化されているため、今年度にさらに研究課題を拡張することで、より多くの成果を上げることができると考える。パンデミックの状況にやはり左右されることを鑑みて、南アフリカでの海外調査とオーストラリアでの海外調査のいずれか一度を実施する。その場合、いずれにせよ渡航費用としての航空券代(往復20万円)・並びに滞在費用として支出する。
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