前年度末に、申請者は研究テーマ「戦間期の南半球果物の農産物流通」において、南アフリカに加えてオーストラリアにまで史料調査範囲を拡大することを目標として掲げた。本年度は、コロナ下での各国の渡航・入国管理の状況を見ながら渡航調査が可能かの見きわめを行わざるを得なかった。この間に、南アフリカ側の史料が示す内容をさらにオーストラリア側の史料から裏付ける手がかりを模索したが、それが難しいことが分かった。そのためキャンベラの国立文書館訪問などのためのオーストラリアへの渡航は断念した。 その一方で、オーストラリアにおける農産品流通がイギリス本国との品質情報ネットワークにどのようにして組み込まれていたのか、その最新の研究の把握に専念した。本年度は国内での一次および二次文献の史料収集にとどまったため、主たる成果をあげることはできなかった。しかし研究期間全体では、南アフリカでの価格情報を現地新聞を使いながら部分的に量的データとして集め、さらにその情報の発信者であるFed-Farmsの組織内のやりとりを会議資料を使いながら具体的に見ることができた。南ア史では、Fed-Farmsについては一次史料や関連産業での会社史に言及があるのみで、その具体的な役割について考察した分厚い研究はこれまでなかった。そうした点からすると、植民地から本国に向けて積極的にブランド化された産品を売り込もうとする現地の果物産業史を英語論文として執筆できたことは、非常に大きな成果であると考える。 また今年度の史料調査中、Fed-Farmsが日本にも支所を置き、その活動について同時代の日本語文献があることを知ることができた。今後は南半球から日本を含めた果物流通がどのように構築されたのかをめぐり、次の基盤研究として現在検討しているグローバルサウス経済史のなかの一研究テーマとして発展させたい。
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