令和元年度に実施した研究内容は主に次の三つに分けられる。第一に、理論的フレームワークの構築である。今年度は、平成30年度に引き続き、定性調査やデータセットの収集・分析を実施するとともに、既存理論に基づいた分析フレームワークの精緻化に取り組んだ。技術・製品の多角化および市場の多角化に関する文献を収集してサーベイ研究を行い、(A)製品、(B)顧客、(C)産業の3つの範囲と企業成果の関係を整理することで、フレームワークおよび作業仮説を構築した。このように、実証分析に先立って理論的枠組みを明確にすることによって、収集したデータをより学術的・科学的に意味のある形で分析・解釈できると期待される。 第二に、データの収集および定量分析の実施である。今年度は、半導体産業・ディスプレイ産業・自動車産業の生産財の取引を主な対象として資料やデータを収集した。とりわけ、構築済みの定量データを利用して、製品の多様性および顧客の多様性が企業の成果に与える影響に関する定量分析を実施した。その成果の一部は学術雑誌において公表している。 第三に、定性調査の実施である。国内では、特定の自動車および電子系の生産財企業を訪問して、技術システムの変化に伴う研究開発戦略および生産戦略の対応について調査を行った。また、今年度にも海外の現場調査を実施した。新興国市場に進出して、顧客範囲と産業範囲を拡大させた日系装置メーカーに対する複数回の訪問調査を実施した。当該企業は現地の企業との資本提携や合弁会社の設立を通して、環境変化に迅速に対応するとともに、産業と顧客の範囲拡大を実現している。主に、研究開発および生産戦略の考え方に関するインタビュー調査を実施したが、この調査結果に基づく成果公表のためにはさらなる調査を必要とする。新型コロナウイルス感染症が収束する次第に追加調査を実施して、学会および学術雑誌に公表していく計画である。
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