本研究の目的は、消費者の商圏レベルでの買い回り行動を理解することと、それに付随する小売店舗の価格先着との関連性を探ることである。従来のマーケティング研究では、チラシ配布などのプロモーション効果に関する研究が蓄積されている。しかしこれらの研究では、競合店舗のデータが利用できないことから競合店舗の存在が考慮されていない。通常消費者は、複数店舗から訪問店舗を選択すると考えられ、競合店舗の存在を考慮しない場合、プロモーションに対する弾力性が正しく推定されず、価格戦略の本当の効果を把握することはできない。 本研究では、近年国内でも増加しているEDLP戦略と、旧来型のHiLo戦略という小売店舗の価格戦略の違いによって、その顧客の買い回り行動がどのように異なるか、という点を明らかにすることを試みた。これは、EDLP店舗の顧客は価格非弾力的であること、特定店舗に対するロイヤルティが高いこと、が知られており、競合のチラシへの反応がHiLo店舗顧客と比べて弱いことが想定されるなど、チラシ効果には価格戦略による違いがあると考えたためである。 そこで、地方で店舗展開を行っている某EDLPチェーンAを中心に、半径5km以内に存在する小売店舗を商圏と定義し、解析を行った。顧客買い回りデータはスマートフォンによる位置情報から取得した。 これらのデータを用いた結果、HiLo戦略を取る小売店舗の顧客は、競合店舗のチラシにも反応するのに対し、EDLP小売店舗の顧客は、競合のチラシにはほとんど反応しないことが明らかとなった。本研究は、EDLP店舗顧客の競合での価格弾力性を測定した初めての研究となった。 この結果は、広告論において最も権威のあるジャーナルであるJournal of Advertising誌において採択・公刊された。
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