本研究では、家庭防災備蓄行動を妨げている要因の一つであるモラルハザードについて、申請者が2017 年12 月に日本全国を対象に実施した家庭防災アンケート調査データを用いて分析を行うことを目的としている。特に、自助と共助・公助との関連性について注目し、他者の防災行動への期待が個人自身の防災備蓄行動に及ぼす影響について検証した。 本研究課題では、まず2017年12月に取得した家庭の防災備蓄状況に関するアンケート調査のデータ整理を行い分析用データに加工した。そして分析の第一段階として、日本の家庭レベルの防災備蓄の現状や意識に関する基本統計量を示した。集計した備蓄状況の地域差を比較するため、GIS(地理情報システム)ソフトを用いて都道府県レベルで地図上に可視化した。先行研究の2013年と比較すると全体的に備蓄割合が下がっていることが分かった。飲料水や食料品の備蓄は、全国平均でいずれも50%を下回っていた。発災後の支援物資の確保までのラグを考えると、備蓄水準をいかに高めていくかが課題となっている現状が浮き彫りとなった。 この結果を踏まえて、同データを用いて家庭の防災備蓄行動の要因分析を行った。分析方法は、備蓄品目ごとの備蓄の有無を被説明変数に用いているためプロビットモデルを採用した。分析の結果、「政府や自治体など公的機関の援助を期待できる」、「地域住民やボランティアなど周囲の人々の助けを期待できる」と強く思っている人ほど備蓄をしていない傾向があることが示された。この結果は、共助や公助への期待が高まるほど、自助が緩んでしまう可能性を示唆している。 本研究を今後さらに進展させていくことにより、自助・共助・公助のバランスについて議論を深め、防災対策の政策貢献を目指す。
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