研究課題/領域番号 |
18H05705
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井上 勇太 早稲田大学, 政治経済学術院, 助手 (60823771)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 顕示選好理論 / 限定合理性 / Limited consideration / Limited attention / Rational shortlisting / Bronar's test |
研究実績の概要 |
本研究では限定合理性の一分野であるlimited considerationモデル(以下LCモデル)について、実証分析への応用が可能な形での理論分析を行い、その後LCモデルの実証分析をすることを目指した。LCモデルの理論分析は先行研究にも多く存在するが、それらの多くは実証への応用を考慮しないものであった。そこで、本研究では主要なLCモデルについて、観測されたデータが当該LCモデルと整合的であるために満たすべき必要十分条件(顕示選好条件)を実証への応用が可能な形で導出することを第一の目的とした。 2018年度においては、LCモデルのなかでcompetitive attention filterモデル(CAFモデル)ならびにrational shortlistingモデル(RSモデル)、transitive rational shortlistingモデル(TRSモデル)の顕示選好条件を実証への応用が可能な形で導出することに成功した。これらに先行研究で顕示選好条件の知られているattention filterモデル(AFモデル)とcompetition filterモデル(CFモデル)を加え、5つのLCモデルを対象に顕示選好条件の制約の強さをシミュレーションにより定量的に比較することができた。具体的には、10000の無作為な選択データを生成し、各LCモデルと整合的なデータの割合を計算することにより各モデルの制約の強さを比較した。結果的に、無作為データの99%以上がAFモデルと、6割程度がCFモデルと整合的であり、これらのモデルの制約が弱いことが明らかになった。他方で、CAFモデルと整合的な無作為データは4%程度、RSモデルは3%未満、TRSモデルは1%未満と、制約が非常に強いことが示された。このようなモデルの定量的な比較は先行研究には存在しないため、有意義な結果を得たといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は(i)主要LCモデルについて、実証への応用が可能な形での顕示選好条件を導出することと(ii)実験により選択データを収集し、各LCモデルが選択データを説明するためのモデルとして適当であるか、またそれぞれどの程度適当であるかを検討することである。2018年度の研究では上記(i)を達成することができた。また、実験の実施についても、2018年度の研究で実験の設計ならびに実験用ソフトのコードの記述、パイロット実験の実施をすることができた。実験報酬の支払いが年度を跨ぐことができない点、また十分な被験者を得るためにリクリート期間を長く確保するために2018年度内に実験を実施することはできなかった。しかしながら、2018年度内に実験実施に向けての礎を築くことができたため、概ね順調に研究を遂行できているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、本研究の第二の目的であるLCモデルの実証分析を行う。具体的には、実験により選択データを収集し、そのデータを説明するためのモデルとしてLCモデルが適当であるか、またそれぞれのLCモデルがどの程度適当であるかを検討する。2018年度の研究で実験を実施するための準備を整えることができたため、2019年度にはすぐに実験を実施できる状況にある。早稲田大学のオンライン掲示板を通して一定人数(200人程度)をリクルートし、早稲田大学政治経済学術院PC実験室にて実験を実施する予定である。実験データが収集でき次第、LCモデルが被験者の選択行動を解析するためのモデルとして適当であるか、またどのLCモデルがどの程度適切であるかを、Selten's indexの比較を通して検討することを目指す。Selten's indexはあるモデルが観測データを説明するモデルとして適当であるかを評価するための指数であり、(a)観測されたデータのもとでそのモデルの顕示選好条件を満たす人数の割合と(b)観測されたデータのもとでモデルの顕示選好条件の制約の強さを表す指標から計算できる。上記aについては実験データが収集でき次第計算可能であり、bについてはシミュレーションによって計算することができる。各LCモデルのSelten's indexの計算ができ次第、2018年度に得られたLCモデルの理論分析とともに論文にまとめ、学会報告・セミナー報告を通して内容のブラッシュアップを目指す。
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