長期滞在家庭は、一時的に滞在先社会に暮らしながら、祖国との繋がりを維持するという二次元的な生活をしている。永住者とは異なり、長期滞在家庭は滞在先社会に完全に溶け込む必要はないと思われ、帰国後の生活を念頭に置いた生活を送っていると考えられる。そうであるとすれば、いずれ本国に帰国する長期滞在家庭にとって、滞在先社会への心理社会的適応のあり方とはどのようなものだろうか。異文化間を行き来する長期滞在家庭が異文化体験を内在化させる過程では、どのような葛藤や気づきがあるのだろうか。本研究では、長期滞在家庭が滞在先社会との摩擦をどのように克服し、帰国後の社会での再受容に向けた準備をどのように行うのかについて理解を深めることを目的とした。 まず、長期滞在家庭は、同じ境遇にいる日本人や、配偶者が勤務する会社または子どもが通う日本人学校のネットワークを主な情報源としていることがわかった。また、語学学習や地域のボランティア活動を通して日本帰国後のキャリアにつなげる努力をしている者もいた。長期滞在者は、海外滞在中も日本とのつながりを維持し、いずれ帰国する時に備えて行動しているようであった。 そして、何らかの専門性を持つ日本人においては、海外で培った専門性を生かして日本社会に貢献することを期待し帰国したものの、自らの専門性が引き続き生かされることはまれであった。これは、海外で習得・研鑽した専門性は、制度などの違いから日本社会においてうまく移行させることが容易ではなく、また、社会の構成員からも海外での知識や経験を快く受け入れられないためであった。これらのことは、帰国後の心理社会的適応を難しくしているようであった。 以上のことから、長期滞在家庭や個人にとって、心理社会的適応には、帰国後の生活をある程度展望しながら、滞在先社会での生活を営む必要があることがわかった。
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