研究課題/領域番号 |
19K20923
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 陽平 東北大学, 工学研究科, 特任助教 (30827895)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 主観的ウェルビーイング / パネルデータ / 就業ステータス / ベイズ統計 / 非正規雇用 / 失業 |
研究実績の概要 |
2年度目には文献調査、データ分析、学会・シンポジウムでの口頭発表を行った。 (1) 文献調査: 就業ステータスと主観的ウェルビーイングの関連といった理論的文献と統計モデリングについての方法論的文献の調査を継続した。 (2) データ分析: 調査課題2「非正規雇用であり続けることの主観的ウェルビーイングへの持続的影響の測定」における日本データの分析結果として3点得られた。1点目として就業ステータス移行と主観的ウェルビーイングの経年推移は性別により異なる傾向を示した。男性と異なり女性ではどの就業ステータスへの移行であっても主観的ウェルビーイングは横ばいであった。2点目として男性非正規従業員への移行は初年のみ主観的ウェルビーイングの定常水準を下回るものの継続期間2年と3年では定常水準に回復しており、この結果は主観的ウェルビーイングの適応を示している。3点目として男性失業者への移行は初年と継続期間2年で主観的ウェルビーイングは定常水準だが、継続期間3年で遅延して低下傾向を示した。採用したデータと統計モデルに条件づけられた結果だが、男性において移行後の就業ステータスが非正規雇用か失業かによってその継続期間における主観的ウェルビーイングの軌跡が大きく異なることが示され、長期化した失業の負の影響が示唆された。一方で、女性の主観的ウェルビーイングの変動が就業ステータス移行後にほぼ見られなかったことや男性における非正規雇用への移行で主観的ウェルビーイングの適応が1年で生じていたことは必ずしもこれらの層への就業ステータス移行の影響が軽微であることを意味しない可能性があることに留意が必要であり、結果の解釈を慎重に吟味しているところである。 (3) 研究成果の発信: 本課題研究に関する成果を統計関連学会連合大会、日本社会心理学会年次大会、社会イノベーションシンポジウムのそれぞれで口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本データの分析を行い、その結果を国内学会やシンポジウムで報告できた点において昨年度一定の進展があった。一方で、分析結果の解釈には慎重な吟味を必要とする点が残されており、調査課題 (1)「非正規雇用であることがなぜ主観的ウェルビーイングに負の影響を与えるのかの理論的説明」のための文献調査のさらなる継続が必要である。ただし、これまでの文献調査から有益な知見もすでに得られている。例えば、既存の横断調査においても日本における非正規雇用や失業状態にある女性の主観的ウェルビーイングの変化は男性と比べ有意であってもかなり軽微か有意でなかった。しかし、これは女性が非正規を望んでそうなったというのではなく、女性がおかれた不利な社会的状況にもとづいて意識のほうを調整した逆因果の可能性 が指摘されている。また、失業についてはニート・ひきこもりといった就労や社会生活が困難な状況におかれた人々がおり、そのような人々は複合的な社会的排除にさらされやすく、その結果としての長期的な負の影響が分析結果に現れた可能性も示唆される。 また、調査課題 (3)「非正規雇用であり続けることが主観的ウェルビーイングに与える影響の将来予測」については時間経過のプロセスを組み込んだ状態空間モデルによるプログラム実装を試みたもののMCMCサンプリングが収束しなかったため、統計モデルやプログラムコードの再検討・改良を必要としている。また、男性失業者においても主観的ウェルビーイングは異なる軌跡の低下傾向をもつことが判明したため、この層の将来予測も含める必要がある。そのため、これらの点についても継続調査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては2年度目に引き続き以下の通り研究を推進させていく。 (1)文献調査: いままでの調査結果や進捗を踏まえて文献調査を進展させる。理論の面では、分析結果から非正規雇用だけでなく長期的失業と主観的ウェルビーイングの関連が示唆されたことから、ニート・ひきこもりに関する文献調査を拡充する。また、それらの人々の境遇に負の影響を与える社会的排除のメカニズムや、その状況からの離脱を可能とする社会政策や法制度など付随するトピックについてもさらなる調査を進める。方法論の面ではベイズモデリング関連の文献調査や類似の分析手法・可視化手法を用いている論文調査を継続する。 (2)統計モデルの改良・将来予測の可視化 ・モデル評価 : 上述の文献調査を継続し、そこでの知見を踏まえながら、並行して統計モデル・プログラムコードの見直しを進めていく。 (3)研究成果の発信: 研究成果をまとめ学術ジャーナルに投稿する。 時間が許せば、 ソーシャルメディアデータに基づくビッグデータ解析かコンピュータ・シミュレーションに基づく補完的な分析を試みることも検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ分析で得られた結果を踏まえ、その結果の解釈や統計モデルにさらなる検討を必要とし、そのための文献調査を継続する。また、今年度はこれまでの研究をまとめ論文として投稿することを計画している。これらの事情のため、文献調査のための資料購入費、論文投稿のための英文校正委託費や論文投稿費用への使用を予定している。
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